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ITS業界記事 地域住民が主導の「コミュニティ・カーシェアリング」の可能性

 第2回「コミュニティ・カーシェアリング」シンポジウム in 石巻

仙台から仙石線で約1時間、石巻駅に到着した。
改札の周辺では、「仮面ライダー」や「サイボーグ009」のオブジェが出迎えてくれた。その他、駅舎には「ロボコン」などの漫画キャラクターが数多く描かれている。石巻市では、宮城県出身の漫画家・故石ノ森章太郎氏の協力を得て、街づくりの施策として「マンガランド基本構想」を立案した。

街の周辺を歩いてみると、市街中心部には古くからの建物が残っているが、電柱には高さ70cmまで津波が押し寄せた、との表示がある。一方、石巻駅から徒歩10分ほど、旧北上川の河口付近には、新築された商工会議所や信用金庫の建物が目立つ。東日本大震災から7年が経ち、石巻の街は確実に再生の道を歩んでいる印象だ。

さて今回、石巻を訪問した理由は、第2回「コミュニティ・カーシェアリング」シンポジウムへの参加である。
石巻市では住民が主導する形のカーシェアリングが行われているのだ。7年前、津波と地震によって約6万台の自動車が損傷して走行不能となった。復興に向けて、国は仮設住宅などの生活支援を始めたものの、移動手段が限られた中で、住民たちは日常生活に支障をきたしていた。
そこで始まったのが、住民自らが独自のルールを作って運営する「コミュニティ・カーシェアリング」だ。
こうした試みは欧州でも生まれているが、大規模な災害からの復興という特殊なケースとして石巻市の事例は世界的に注目を集めている。

 カーシェアリングは、貸し借りの場所で大きく4パターン

2016年の第1回に次いで、今回のシンポジウムにはベルギーのカーシェアリング運営団体関係も登壇し、「コミュニティ・カーシェアリング」の未来について議論した。

開催にあたって、石巻市の亀山紘市長と復興庁関係者が挨拶をした。
その後、ベルギーとドイツの事例を紹介。また、石巻市でコミュニティ・カーシェアリングの普及に務めている一般社団法人 日本カーシェアリング協会から運用の実態について説明があった。
昼食後には、石巻出身で現在はオーストリアのウィーン工科大学の交通研究所に勤務する関係者、また長野県の長岡技術科学大学で地域公共交通を研究する関係者などが講演を行った。

そうした中で興味深かったのは、カーシェアリングには様々な方式があり、また大手事業者によるビジネスモデルだけではなく、住民が自主的な活動として行うケースも世界各地で生まれている点だった。
日本でカーシェアリングといえば、大手の駐車場事業者であるパーク24(タイムズ)や三井不動産リアルティ(三井のリパーク)が運営する、同じ駐車場を基点・終点とするカーシェアリングの普及が進んでいる。こうしたケースを、ステーション型のラウンドトリップ(往復)型と呼ぶ。ステーション型ではこの他、借りた駐車場とは別の駐車場で返却してもよいワンウェイ(片道)がある。パーク24は、トヨタの小型EVを使ったステーション型でワンウェイ型の実証試験を都内などで行っている。

一方、ラウンドトリップ型で特定のステーションを持たず、ある一定の地域をゾーンと見なして、ゾーン内であれば借りた場所と異なる場所で返却してもよいホームゾーン型がある。これはフランスのパリなどで実用化されている。
さらに、ワンウェイでどこでも借りて、どこでも返却できるフリーフローティング型もある。これは近年、中国の上海や北京などの都市部で一気に普及した自転車シェアリングが該当する。

 「コミュニティ・カーシェアリング」は今後普及するか?

こうした事業者が主体となるカーシェアリングの他に、地元住民が自主的に行うカーシェアリングを、一般的に「コミュニティ・カーシェアリング」と呼ぶ。
石巻市では2018年5月時点で、合計7箇所で205人の会員がいる。平均年齢は73歳と高齢化が進んでいる。また、男女比では3:7と女性が多い。これは、高齢者では女性が自動車運転免許を所持していない人が多いことが理由である。

車両については、各方面からの寄付が主体だ。その中で、中古車販売ガリバーを運営するIDOMは30台以上を2011年からに寄付している。
カーシェアリングの内容は、買い物や病院など外出支援のみならず、近隣への小旅行などでも活用さている。目的は、支え合う地域づくりである。

運転については、利用者自身が運転するほか、ボランティアのドライバーによるタクシーのような利用方法もある。利用料金は5kmあたり500円だが、これは経費実費であり、定期的に会員全員で利用状況と収支を確認して、経費実費を会員が平等の比率で負担する仕組みだ。道路運送法で、対価を受け取る送迎行為や車両の貸出し行為は禁止されており、「コミュニティ・カーシェアリング」はあくまでも、合法となる範囲で行うものと説明された。
日本では、道路運送法の特例措置として、自家用有償旅客運送という規定があり、中山間地域などの交通困難地域や、福祉に関する移動で運用されている。「コミュニティ・カーシェアリング」はそうした特例措置とも違う考え方であり、基本的に地元自治体への届け出義務はない。

今回講演したベルギーの関係者も、同国内で地域住民が中心となって「コミュニティ・カーシェアリング」が行われている事例を詳しく紹介した。たとえば、地域住民が自主的にカーシェアリングを行う「Cozycar」や「Degage」などだ。ただし、日本とは道路運送法など各種の法的な解釈が違うことで、同じ運営手法を日本にそのまま持ち込むことは難しいと思われる。

世界的に住宅やクルマにおけるシェアリングエコノミーが台頭する中、日本では今後、「コミュニティ・カーシェアリング」がどのように進化していくのか?
この分野も引き続き取材を進めていきたい。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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