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ITS業界記事 空飛ぶ車やMaaS(モビリティのサービス化)など、スイス・ジュネーブショーを取材

 プレスデーを取材。高級EVが続々発表された理由とは

毎年恒例のジュネーブショーが今年も開幕し、一般向け公開に先立ち3月6日から報道陣公開(プレスデー)が実施された。
ショーの目玉となったのは、ポルシェやジャガーなどが出展した高級な電気自動車(EV)だ。欧州市場では欧州委員会(EC)が定める自動車向けCO2規制が世界で最も厳しい。具体的には2021年までに95g/kmとなるため、自動車メーカー各社はハイブリッド車やプラグインハイブリッド車などパワートレインの電動化を進めてきた。また、ECは2017年後半に新たなるCO2規制の目標値を設定し、2030年までに2021年比の30%減を目指すとした。厳しいCO2規制をクリアするためには、自動車メーカーは早期にEV市場導入することが必須となったのだ。

こうした欧州での市場変化の中で、価格の安い小型EVではなく、高級EVが続々と登場し始めた理由は何か?
それは、欧州自動車メーカーの米テスラへの対抗意識だ。テスラは4ドアクーペのモデルSとSUVのモデルXで販売台数を伸ばしており、昨年後半から中級クラスのモデル3の製造を開始した。高級EV市場はテスラが独占しているのが実情だ。

こうした現状に対して、ダイムラーを筆頭とした高級車メーカーが危機感を持っている。
欧州CO2規制の強化に加えて、中国で2019年から実施される新エネルギー法(NEV法)への対応が必要とされるこのタイミングで、高級EVの販売強化を図る構えだ。
参考までに記載するが、2017年の世界市場でのEV総販売台数は約142万台で、このうちの約半数にあたる77万7000台は中国で販売された。モデル別の販売台数でも中国メーカーの躍進が目立つが、中国製EVは中国のみでの販売であり、世界的な知名度は未だに低い。 

  空飛ぶ車「5~6年後には量産したい」

EVの他に、今回のジュネーブショーでメディアの注目が集まったのが、空飛ぶクルマ(Flying car) だ。
一般的にカロッツェリア(Carozzeria)と呼ばれる、イタリアのデザイン開発企業の老舗、イタルデザインはエアバス社と協力したコンセプトモデルを発表した。特徴は、乗車するスペースが飛行時と陸上での走行時に切り離されることだ。飛行時には、4つの大型電動ファンによって垂直に離着陸が可能だ。着陸する時には、電気自動車(EV)の台座(Platform)に合体した後、大型電動ファンが切り離される仕組みだ。
取材に応じたイタルデザインの担当者は「5~6年後には量産したい」と、新たなるビジネスに向けて積極的な構えを見せた。

空飛ぶクルマについては、アメリカのライドシェアリング大手のウーバー(Uber)テクノロジーズや半導体大手のインテルなどが、2025~2030年頃の量産化を目指す動きがある。
今後は、各国の航空法と道路交通法などの改訂を進めると共に、飛行時の安全性の確保について具体的な議論が世界各地で高まるだろう。

 MaaSに4兆円規模の投資を発表したフォルクスワーゲン(VW)

EVや空飛ぶクルマの出展が目立つ中で、別の視点でメディアの注目集めた企業があった。
それは、ドイツのフォルクスワーゲングループ(VW)だ。
プレスデーの前日、VWはジュネーブ市内で独自イベントを開催したが、その中でMaaS事業に対して2022年までに総額4兆円規模の投資を行うと発表したのだ。

MaaSとは、モビリティ・アズ・ア・サービスの略称。一般的には、ライドシェアリングなどのシェアリングエコノミーに関係する新しい自動車ビジネスを指す場合が多い。
一方で、筆者の個人的な考えでは、電動化(EV)、自動運転化(AV)、コネクテッド化(CV)という3つの技術領域を融合した新しい自動車サービスがMaaSだと思う。

VWが掲げるMaaSの中核事業となるのが、ライドシェアサービス「MOIA(モイア)だ。VWが製造・販売している中型ミニバンをベースに自動運転用に改造した車両を使い、オンデマンド型の交通システムを構築するもの。日本では日産とDeNAが横浜で実証試験を行う、自動運転技術を活用した交通サービス「イージーライド(Easy Ride)」に近い考え方だ。日産・DeNAの場合、2020年代の早期に事業化を進めると言うに止めたが、今回のVWの発表では投資額と投資期間を明言することで、VWがMaaSの世界的リーダーになるとの意思を示した。
VW以外にはダイムラーがCASE(Connected, Autonomous, Shared, Electric)というマーケティング用語を使うことで、日本の経済メディアでもMaaSに関する記事が徐々に増えてきている。
また、トヨタは2018年1月の米CESで、MaaS向けのe-パレット コンセプト(e-Palette Concept)を発表するなど、世界各地でMaaSに関する主導権争いが激しさを増している印象がある。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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