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ITS業界記事 EVの影で、ジワジワと加速する中国「BAT」の動き

 中国で「第二次EVバブル」到来

2年に一度開催される、北京モーターショー(一般公開:2016年4月29日~5月4日)。
その場内を巡って、強く感じたのはEV(電気自動車)の多さだ。これは、中国政府が推進するNEV法(ニュー・エネルギー・ヴィークル規制法)に、自動車産業界が対応したものだ。なかでも、中国地場メーカーが量産型EVを積極的に出展した。

中国でのEV施策といえば、2000年代後半の「十城千両」を思い出す。これは、10つの大都市それぞれで、数千台規模のバスやタクシーを電動化するというもの。多額の補助金が地方政府を介してばら撒かれたため、各地でリチウムイオン二次電池の製造を中核とした「EVバブル」が起こった。その後、参加を義務化された都市は25まで拡大したが、「十城千両」は2013年秋に突如、中止となった。その当時、現地の事情に詳しい中国のメディア関係者に直接確認したところ、「地方政府の役人が、中央政府の意向をしっかり理解しておらず、各種の事務手続きが滞ったから」と説明していた。
ところが、2014年秋になると、またしてもいきなり、中国政府が新たなるEV政策を発表した。これは、個人向けのNEV(ニュー・エネルギー・ヴィークル)普及を目指し、販売奨励金を拡充するというもの。さらに、自動車メーカー各社に対して、目標年でのNEVの販売台数の義務付けを法令化する準備に入った。そのために、アメリカでのZEV法(ゼロ・エミッション・ヴィークル規制法)を念頭に置いて、アメリカ政府と連携。具体的には、天津にある国立自動車研究センター(CATARC)と、ZEV法が規定するカリフォルニア州環境局の大気保全委員会(CARB)向けの各種実験を担当しているカリフォルニア大学デービス校(UCD)が共同チームを立ち上げた。

直近では、2016年に入ってから、NEV法に関する政府からの通達が増えており、自動車メーカー各社はその対応に追われている状況だ。また、こちらもアメリカの政策を参考とした、企業別燃費規制(CAFÉ)について厳しい条件が叩きつけられている。トヨタの中国事業の統括役員は「CAFÉとNEVの強化が進むなか、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車による中国向けラインアップについて、大幅な見直しを進めている段階だ」と明かした。ただし、EVや燃料電池車(FCV)の中国市場への投入については、慎重な発言に終始した。

一方、中国地場メーカーは、日系メーカーへの対抗策として、セダン、クーペ、そして小型SUVなど、多彩なEVラインアップの早期量産化を目指す構えだ。そのため、今回の北京ショーは「第二次EVバブル」の様相となったのだ。

 クルマに忍び寄るBATの勢力

欧米や日本の動きに同調した、自動運転車の出展も目立った。
なかでも注目されたのが、ベンチャーの「LeSEE」だ。香港に本拠を置く、TVやインターネット関連企業のLeTVが関与するとされ、今年1月にラスベガスで開催されたCES2016で世界初公開されたEVベンチャー「ファラデー・フューチャー」と技術提携するという。こうした企業連合の裏には、米アップルの存在も取り立たされているなど、謎が多い。

これに対して、自動運転に対して正攻法な開発を進めているのが、中国地場の中堅メーカー、長安汽車だ。今回の北京ショー会場に向かって、高速道路を自動運転で2000km走行する公開試験を実施し、その模様を収録した動画をショー場内で流した。また、自動運転を実施するために必須となる、高精度地図の生成については、中国の地図データ情報サービスの最大手、百度(バイドゥ)と連携。ショー会場では、レーダー・レーザーを用いたライダーや、カメラとビデオ機器を搭載した小型SUVを展示した。
さらに、バイドゥは車載インフォテイメント(インフォメーションとエンタテイメントの融合)の領域で強い影響力を行使している。車載器とスマートフォンの連携プラットフォーム、「カーライフ」を全メーカーに対して供給し始めているのだ。中国では、中国政府の意向によってグーグルが事業を行えない。そのため、欧米で普及が進む「アンドロイドオート」が使えず、「カーライフ」が、アップルの「カープレイ」と共にデファクトスタンダードとなる。

他方で、中国のIT大手で自動車産業への影響力を拡大しているのが、ネット通販最大手のアリババだ。同社のポータルサイトである「天猫T Mall」では、新車購入に対して顧客をディーラーへ紹介する「クルマのネット通販」を行っている。ホンダの中国事業統括者によると「中国国内の平均で約3割が天猫T Mall経由の顧客だ。ディーラー数が少ない内陸部などでは、その割合は6割近く達する場合もある」と指摘する。
さらに、アリババはライドシェアでの料金支払いで、「支付宝(アリペイ)」の普及を拡大させている。

また、自動車メーカーが独自に採用する車載器アプリのなかで、中国市場の独自性が強いのが、SNS最大手のテンセントが運営する「微信(ウィーチャット)」だ。
こうした中国のIT三大勢力、バイドゥ、アリババ、テンセントは、それぞれの頭文字をとって「BAT」と呼ばれている。

中国の自動車市場では、80年代生まれが消費の中核。さらに、最近は90年代生まれの「ネット・ネイティブ」世代に対して、自動車メーカーとIT産業が「クルマの新たなる価値」を訴求しようとしている。そうしたなか、自動車産業界で今後、BATの存在感がますます高まることは確実だ。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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