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ITS業界記事 東京オートサロン2024、EVシフトの方向性
~エンジン開発強化の動きも~

 新たなエンジン開発を進めていくプロジェクト

EVシフトの先行きは、まだ不透明。
これが、今年の東京オートサロン2024(2024年1月12〜14日、於:千葉県幕張メッセ)を取材した筆者の感想である。
東京オートサロンは、カスタムカーと関連商品の展示会としては世界最大級イベントである。主催者発表によれば、参加人数は報道陣や関係者向け公開日だった初日は5万1014人、2日目が9万5081人、3日目が8万3978人で、合計23万73人となり、前年の17万9434人から大きく増加した。

まず、初日に実施された自動車メーカー各社のプレゼンテーションを見た。トップバッターは、モリゾウだ。
トヨタ自動車会長の豊田章男氏は、レースやラリーなどモータースポーツに競技者として参加する際、ニックネームとしてモリゾウを名乗っている。昨年の段階でトヨタ社長と日本自動車工業会・会長から退くことを表明しており、モリゾウとしての活動範囲が今後、さらに広がっていきそうだ。
そんなモリゾウから「新年のご挨拶」という形式で、トヨタのプレゼンが進んでいった。詳しい内容はトヨタのホームページで動画とテキストで確認できるが、筆者が注目したのは「新たなエンジン開発を進めていくプロジェクト」だ。
自動車産業でのEVシフトが進む中で、改めてエンジンの必要性を強調する取組みである。
トヨタのみならず、日本自動車工業会はこれまで、カーボンニュートラルに向けてはハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、EV、燃料電池車、水素燃料車など様々な選択肢があり、これらを国や地域の社会状況に応じてうまく組み合わせていくのだと主張してきた。
今回もモリゾウは「敵は炭素」というフレーズを用いて、カーボンニュートラルへは様々な技術を総動員するべきとの考え方を改めて示した。
その中で、エンジン開発を強化するというのだ。

 エンジン開発を強化する3つの要因

これから先は筆者の見解となるが、いまエンジン開発を強化する理由として大きく3つの要因があると思う。
1つ目は、欧米での法律に対する柔軟性を持つこと。
欧州委員会が推進する欧州グリーンディール政策の政策パッケージ「FIT for 55」では、エンジンで合成燃料を使うことを認めた。
またアメリカでは今年11月の大統領選挙で、仮に共和党のトランプ候補が大統領に返り咲いた場合、バイデン政権がこれまで推進してきたEVシフトを大幅に修正する政策を表明することも考慮するべきだ。

2つ目は、国や地域による電動化への移行が、自動車メーカー各社の当初予想よりも遅くなる可能性に対する配慮だ。
国や地域での法律によって電動化を義務化する動きがある一方、消費者ニーズとしてはエンジン車を要望する声が高い場合が少なくない。
また、燃費や環境といった側面だけでなく、エンジン車の走りを楽しむという若い世代が多い国や地域も少なくない。

そして3つ目は、日本国内でのエンジン車を愛する人たちへの配慮だ。東京オートサロンの会場内を見渡すと、EVの姿は未だに極めて少なく、エンジン車、またはエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド車をカスタマイズする人のニーズが高いことが分かる。
今後、世の中全体がEVシフトへと大きく進んでも、エンジン車やハイブリッド車をカスタマイズするという、日本の自動車文化は当分の間、続くことが考えられる。

こうした要因から、トヨタが新たにエンジン開発プロジェクトを立ち上げたものと、筆者は考える。

 自動車メーカー各社の展示

トヨタ以外の自動車メーカーブースを見ても、電動化に直接関する内容は、日産がEV「アリア」でスポーティなNISMO仕様コンセプトを発表しただけ。
ホンダはインド生産のエンジン車「WR-V」のカスタマイズ仕様や、2024年のモータースポーツ参戦計画を発表した。今年日本でも開催されるEVのフォーミュラカーシリーズ「フォーミュラe」へは参戦しない。
マツダは、国内スーパー耐久シリーズで培った知見を活かした、マツダスピリットレーシング仕様の量産向けコンセプトとして「ロードスター」と「マツダ3」を展示した。どの程度までチューニングするべきかマツダ社内で調整中だが、量産の方向で検討している。これらは電動車ではない。
スバルは、スバルテクニカインターナショナル(STI)から特別仕様車「WRX S4 STI Sport♯」を発表。限定500台で発売する。無論、電動車ではなくスバルの水平対向エンジンをさらに熟成させたモデルだ。
三菱は、タイ生産のピックアップトラック「トライトン」の日本発売を機に、オフロード仕様を公開。三菱によれば、実際にオフロード走行はおこなわず街中で走るためのファッションとして、高額なオフロードパッケージを購入するユーザーも少なくないという。トライトンも電動車ではなくエンジン車である。
海外ブランドでは、韓国ヒョンデと中国BYDがEVを出展した。

このように、日本のカスタムカー市場においては未だに、電動化やEVシフトが進んでいるとは言い難い状況だ。

最後に、東京オートサロンの生い立ちについて触れておく。本連載では2022年と2023年に紹介しているため、ここでは簡単に振り返る。
80年代に始まった東京オートサロンの前身である東京エキサイティングカーショーは、過度に改造をした、道路走行には非合法なクルマも目立った。展示車両のみならず、会場周辺でも全国各地から過度な改造をしたクルマが数多く集まり、主催者が警察から指導を受けることも珍しくなかった。
それが90年代後半になると、警察の取締強化や、若い世代でのチューニングカー離れの風潮などが影響し、エンジンなどクルマのパワートレインをチューニングするビジネスが伸び悩んだ。
一方、クルマの内装や外装を変更するカスタマイズが、新車販売店でのオプションパーツとして人気を得たことで、自動車メーカー各社が東京オートサロンに出展するようになった。
過激な改造車の姿が徐々に減り、より広い世代で受け入れられるようなカスタマイズ世界が広がっていった。こうして東京オートサロンの歴史を振り返ると、東京オートサロンは日本のクルマ文化の変遷を映し出す鏡だと言える。
はたして、東京オートサロンでEVカスタマイズが当たり前になる時代はいつ頃来るのだろうか?
現時点で、その時期を予想することはとても難しい。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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