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ITS業界記事 自動運転、コネクティビティへの時代変化の中で目指す「原点回帰」

  「走る歓び」と「走りの楽しさ」

自動運転、コネクティビティ、EVという3つの技術領域。これらが融合して事業化するMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)。
こうした時代変化に対して、自動車メーカー各社は自社の組織改革をするなどして次世代技術と次世代サービスへの対応を急いでいる。

一方で、自動車メーカーとして原点回帰しようとする動きもある。クルマの本質である「走る歓び」を再認識しようという動きである。
その例として、トヨタのスポーツカー「スープラ」、そしてレクサスはクロスオーバー「UX」について紹介したい。いずれもコネクティビティ技術を取り入れつつ、「走りの楽しさ」へのこだわりが見てとれる。

 トヨタ初となる独BMWとの共同開発。第五世代「スープラ」

2018年12月上旬、雨模様の袖ヶ浦フォレストレースウエイ(千葉県袖ケ浦市)に、外観をカモフラージュした3台の「スープラ」が並んだ。
「スープラ」は1980年代に「セリカ」の派生モデル「セリカXX(ダブルエックス)」として誕生し、最新型は第五世代となるトヨタの上級スポーツカーだ。
第五世代「スープラ」の正式発表は、2018年1月14日の北米国際自動車ショー(米ミシガン州デトロイト)のプレスデーとなる。
今回は「量産試作(ファイナルプロトタイプ)」と呼ばれる、量産に向けた最終テスト車両を試乗した。そのため、トヨタ側からは車両の詳細データは非公開。唯一分かっているのは、エンジンが直列6気筒のターボエンジンでミッションが8速オートマチックであること。

第五世代「スープラ」の最大の特徴は、トヨタ初となる独BMWとの共同開発である。具体的には、車体とエンジンをBMWのスポーツカー「Z4」と共用し、製造はオーストリア国内にある欧州大手部品メーカー・マグナステアの工場で行われる。つまり、日本仕様の第五世代「スープラ」は全数、輸入車になる。
トヨタにとって、こうしたスポーツカー開発における他社との連携は、スバルとの「86」「BRZ」で実績がある。トヨタの本音としては、トヨタのスポーツカーに対する市場からの声は絶え間なくあるのだが、販売台数が大きく伸びないスポーツカーに対しては、研究開発費用をできるだけ抑えたい。そのうえで、マーケティング活動を最大限に活用し、トヨタへの「クルマ好き」の気持ちをトヨタ側に引き留めたい。
とはいえ、第五世代「スープラ」は、BMW「Z4」の単なる兄弟車とは思えない。エンジンのヘッド部分は「スープラ」専用設計を施すなど、明確な「トヨタの色」を出している。

サーキット走行の際、路面がかなり濡れていたので、直線路では最高速度170km程度に抑えて、コーナーリングでの車両特性を探りながら走った。コーナーでアクセルを豪快に踏み込むと、後輪は左右にスライドして、カウンターステアリングでクルマのバランスをとった。「スープラ」のヘリテージ(歴史)である直列6気筒エンジンの後輪駆動車(FR車)なのだから当然だ。
だが、けっして暴れ馬のようにドライバーがコントロールすることが難しいクルマではない。推定で、最高出力は350馬力前後、最大トルクは500Nm前後というハイパフォーマンス。だが、ドライバーがクルマに振り回されるような雰囲気ではない。あくまでも、ドライバーがクルマを操る楽しさがある。

技術的な裏付けとしては、左右の後輪へのトルク配分を0~100%でコントロールする、アクティブデファレンシャル機構によって、ニュートラルなステアリング特性へと導かれ、クルマ全体の動きが安定するのだ。
こうした上級スポーツカーである「スープラ」にも、車載器から走行状況や顧客データをクラウドと送受信するために、DCM(データ・コミュニケーション・デバイス)が搭載されている。コネクティビティ技術の活用は、トヨタの新型モデルとして必然である。だが、「走りを楽しむ」という点において、コネクティビティはあくまでも安全走行のためのバックアップ技術に思えた。

 クリエイティブ・アーバン・エクスプローラー。レクサス「UX」

「スープラ」試乗の翌週、神奈川県の川崎臨港地域を起点として、レクサス「UX」のメディア試乗会に参加した。
「UX」は2018年3月、スイスのジュネーブモーターショーで世界デビュー。レクサスブランドとしては「LX」「RX」「NX」に次ぐ、クロスオーバータイプのエントリーモデルという設定だ。
ラインアップは、エンジンは直列4気筒2.0リッター搭載の「UX200」と、2.0リッターハイブリッドの「UX250h」があり、前輪駆動車(FF)の他に後輪をモータ駆動する四輪駆動車(AWD)だ。

商品コンセプトは「クリエイティブ・アーバン・エクスプローラー」。
30~40代の都会暮らしで、夫婦の合算年収が1000万円を超えるような人たちが、週末に海や山に日帰りのショートトリップに出かける。そんなイメージで、千葉県の房総地域と神奈川県の葉山地域、それぞれ往復約150kmの試乗に出かけた。

最も驚いたのは、ハイブリッド車の出来栄えの良さだ。モータ駆動とエンジンの制御を最適化したことで、抜群の加速感と、エンジンのトルクの頭打ち感がない伸び感を両立された。そのパワー&トルクを上級な溶接技術を用いた車体がしっかりと受け止めている。
その結果、高速道路でも一般路でも、走ることがとても楽しく、ウキウキした気分になる。
また、インテリアには、和のテイストを盛り込んだデザイン手法と、コネクティビティ技術と連動した最新装備が満載だ。とはいえ、ここでもコネクティビティ技術は、走りを楽しむためのバックアップ技術に思えた。

 「所有から共有」は、低価格~中価格車向けが主体の考え方か?

こうして、トヨタ「スープラ」とレクサス「UX」をじっくり試乗してみて、改めて感じたことがある。
クルマに対する所有欲は、今後もなくならないのではないだろうか?
自動運転、コネクティビティ、EVという技術領域の発展で、将来的にはシェアリングエコノミーがさらに発達し、クルマの「所有から共有」への移行が進むと予測するコンサルタント関連企業が多い。
そうしたトレンドは、低価格~中価格のクルマが中心となり、上級スポーツカーやプレミアムブランドでは「所有し続ける人」があまり減らないようにも思える。

一方、メルセデスやアウディなど欧州メーカーでは、月々の定額支払いで新車乗り換えの事業化を始めるなど、高級車でも「所有しないこと」を提唱している。
果たして、クルマの「所有から共有」は今度、どのように推移していくのか?
今度の市場動向をしっかりと見守っていきたい。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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