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ITS業界記事 EVシフトの動向と消費者ニーズ

 GMが発表、次世代型EVプラットフォーム

ゼネラルモーターズ(GM)は2020年3月4日、次世代型EVプラットフォームを世界に公開した。そして今年(2020年)からGMの全ブランドであるシボレー、ビュイック、GMC、キャデラックで新型EVを発表するとした。
しかし、3月に入り新型コロナウイルスの影響が全米に及び、14日にはトランプ大統領が国家非常事態を宣言した。その後の記者会見でトランプ大統領は「新型コロナウイルスの影響は今年7月から8月まで及ぶ可能性がある」とアメリカの厳しい状況を説明している。

そのため、自動車メーカー各社の事業計画は大幅な修正が強いられることになるだろう。
こうした状況下であることを踏まえたうえで、GMのEV戦略を紹介したい。

今回発表された次世代型EVプラットフォームとは、GMが「アルティウム」と呼ぶ電池パックとモーターを組み合わせたもの。「アルティウム」は、韓国LG化学製のパウチ型のリチウムイオン電池を使う。ひとつの電池をセルとして、複数をまとめたモジュールにする。モジュールにはセルの温度管理などを行う制御システムが組み込まれる。モジュールを組み合わせることで、車両の形状に最適なかたちと電気容量を持つ電池パックに仕上げる。

こうした発表内容を見る限り、「アルティウム」はGMマーケティング用語であり、日産、テスラ、フォルクスワーゲンなどEV開発で先行する自動車メーカーが用いるEV構造と大きな違いはないと考えられる。
「アルティウム」での特徴は、設定されている電気容量の種類が幅広いことだ。適合するモデルは、最も小さいサイズが電気容量50kWhの第二世代シボレー「ボルトEV」。最大電気容量は200kWhに達しGMC ハマーEVに搭載される可能性が高い。

ハマーは軍用車として製造されていた特殊車両の商品イメージを使い、GMが独自ブランド化させた。90年代から2000年代中頃にかけて日本を含む世界各国で、ハマーH2やハマーH3が人気を博したが、2008年のリーマンショックでハマーブランドを廃止。一旦は中国企業にブランド権を売却していたが、その企業も経営破綻した。今回はブランドではなく、GMCブランドの中での車両名称としてハマーを復活させる。

 最大出力350kWの超高速充電を採用

もうひとつ、GMのEV戦略での特徴は、急速充電方式を2つ提供する点だ。ほとんどのEVモデルは、直流で最大電圧400V・最大出力200kWに対応。一方、GMCハマーEVのようなフルサイズピックアップトラックでは、最大電圧800V・最大出力350kWの超高速充電が可能だ。これはポルシェが量産するタイカンにも採用される方式。日本の急速充電方式「チャデモ」に比べて充電ケーブルの温度が高くなることに対応して、ケーブルに水冷方式を採用する。

実は、ポルシェが800V・350kW方式を採用することで、一部のポルシェディーラーからは「ポルシェ専用設備として多額の投資がかかる」として、ポルシェを含むフォルクスワーゲングループのEV戦略を疑問視する声が出ていた。
今回、GMが参画することで、大容量の電池パックを搭載する高級EVでは800V・350kW方式が一般化する可能性がある。日系メーカーでは、UX300で初めてEV事業に参画したレクサスが、コンセプトモデルLF30エレクトリファイドのような上級EVを後量産する際、ライバルの動向を考慮して、800V・350kW方式の導入を視野に入れざるを得ないはずだ。

また、別の視点でGMのEV戦略で注目されるのが、電池セルの価格だ。電池パックに搭載された状態でのコスト換算で、1kWhあたり100ドル以下(1万円以下)だと公表した。
日産やフォルクスワーゲンなどではこれまで、こうしたコストを公開していないが、一般的には150ドル前後と言われてきた。
時代を振り返れば、GMがLG化学と連携してリチウムイオン電池の量産を始めた2010年代前半は、1kWhあたり350ドルをいう数字が公表された。それでも、業界関係者の間で「驚くほど安い」と言われたものだ。それから7~8年で価格が3分の1以下になったのだ。
ただ、電池業界の関係者らと意見交換していると、中国で圧倒的なシェアを誇るCATLを除き、LG化学を含むほとんどの電池メーカーが、電池事業だけでは赤字経営だと指摘する。LG化学としては、GMとの総括的な連携により、さらなる量産効果を狙うことになる。

 政策優先、一方で消費者不在の状況も

筆者はこれまで、世界各地で定常的にEV開発や販売の動向を見てきた。
2010年代は、大手自動車メーカーとして初めての大量生産型EVである、日産リーフと三菱i-MiEVが登場。テスラがモデルSを皮切りに、独自戦略で高級EV市場を開拓。2016年にはフォルクスワーゲングループが中期経営計画でEVシフトを提唱。さらに、中国政府は2019年、事実上のEV販売台数規制である新エネルギー車(NEV)規制を施行。といった、EV普及に向けた自動車メーカーや国の動向を各地の現場で見てきた。

そして2020年代に入り、GMのEVシフトなど新しい動きを踏まえた上で、自動車産業全体が一気にEVシフトするとは思えない。
EVはこれまで、国や地域による販売義務化や購入補助金などの政策が優先され、消費者不在の状況が続いてきた。テスラなど一部を除いて、EVに対する消費者ニーズがないのだ。
そうしたなか、フォルクスワーゲンを筆頭とするドイツ大手各社や、GMのEVシフトの出鼻をくじくかのように、新型コロナウイルスが世界で猛威を振るっている。
見方を180度変えると、コロナショックをEVシフトの失敗の言い訳に使われてしまうかもしれない。
世界市場におけるEV普及の行方を見通すことは、とても難しい。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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