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ITS業界記事 「デジタル交通社会」の未来
~「官民ITS構想ロードマップ」の大胆な書き換え~

 「デジタルを活用した交通社会の未来2022」の決定

デジタル庁は2022年8月1日、第4回デジタル社会推進会議幹事会で「デジタルを活用した交通社会の未来2022」を決定した。

これは、デジタル庁で行った有識者会議「デジタル交通社会のありかたに関する研究会」での議論を取りまとめたものである。
本稿では、この研究会に参加したひとりとして、未来の交通社会に対する筆者の私見を述べたい。
自動車業界、IT/電気業界、また中央官庁や地方自治体などの各種行政機関の関係者らとの定常的な意見交換を踏まえて、筆者として「日本の未来」に向けた期待を示したい。

なお、「デジタル交通社会のありかたに関する研究会」での議論は、デジタル庁のホームページで、ライブ配信を含めてYouTube動画として全編が公開されている。
https://www.youtube.com/watch?v=dDI5KSkmqpY
省庁が実施する有識者会議で、ここまで議論をフルオープンにしている会議は極めて珍しい。

 本格的な社会実装に向け「実証のための実証」から脱却

まず、「デジタルを活用した交通社会の未来2022」の目的とは何か、という点から話をスタートする。
直接的な目的は、国が2014年から毎年改訂してきた、ITS(インテリジェント・トランスポート・システムズ/高度道路交通システム)と自動運転に係る政府全体の戦略である「官民ITS構想ロードマップ」の大胆な書き換えだ。

「デジタルを活用した交通社会の未来2022」の冒頭、「はじめに」の項では、「官民ITS構想ロードマップ」にて府省庁や民間企業の今後の方向性が共有され、民間企業では競争と協調が行われてきたとして、一定の評価をしている。

その上で「しかしながら、地域における導入状況に目を向けると、全国各地で様々な取組が進められているものの、実証実験止まりとなっているケースが多く見られるなど、今後は、その本格的な社会実装に向けてロードマップの更なる展開を目指す必要がある」(本文から引用)と批評している。

確かに、筆者もこれまで全国各地で自動運転や新しいモビリティサービスに関する取材を行ってきたが、その多くが「実証のための実証」として、その使命を終えているのが実情だ。
さらにいえば、実証期間が数日や、長くても1~2週間といった短いケースが少なくなかった。
もちろん、期間は短くても、技術面での実証を行う意義が大きかったケースもあるとは思うが、地域住民や地域の民間企業などと強力に手を取り合って、社会実装を念頭に「具体的にこれからどうしていくのか?」という視点での議論が甘かったケースも少なくないと感じる。

そこで、「デジタルを活用した交通社会の未来2022」の基本的な方向性として、「暮らし目線からのサービス」を掲げた。
そんな表現だと「いまさら、何を言っているのか?」と、思われる方が多いはずだ。
だが、社会全体を俯瞰して、未来の交通社会を考えるためには、いまこそ、ひとりひとりの「暮らし目線」という「そもそも論」に立ち返る必要性があると考える。

今回の議論の中で、筆者は「社会受容性という言葉の再認識が必要だ」と発言している。
ITSや自動運転、また近年では日本でも一気に実用化が進み始めたEV(電気自動車)について「社会受容性」という表現が度々登場する。
ただし、その解釈は、先端技術やその活用に伴う法改正に対して「地域住民はどう感じたか?」という、後付け的なアンケート調査の側面が強い印象がある。

その上で、筆者は「交通やモビリティは、社会全体の血液(インフラ)」だという実感を持っている。
そうした概念は、これまでも一般論としては認識されていたが、地方自治体や地域社会での交通の議論では、そうした社会全体との関わりを明確にする手法がほとんど見当たらなかったと言えるだろう。

 「準公共分野」のデジタル化

そこで、デジタル庁は交通やモビリティを含めた、デジタル社会の全体について議論するデジタル社会推進会議が2022年6月7日に公開した「デジタル社会の実現に向けた重点計画」の中で、「準公共分野」のデジタル化の推進を掲げている。

「準公共分野」とは、「国、独立行政法人、地方公共団体、民間事業者等といった様々な主体がサービス提供に関わっている分野」と定義している。
具体的には、防災、健康・医療・介護、教育、こども、インフラ、港湾(港湾物流分野)、モビリティ、農林水産業・食関連産業の8分野を指す。
また、これらが相互連携する分野として、スマートシティや取引(受発注・請求・決算)などとしている。

つまり、モビリティや交通を準公共分野の中で議論し、デジタル化よって準公共分野それぞれを一気通貫で行えるようにすることで、地域住民の利便性が上がり、またサービス提供側の事業運用が効率的かつ的確に行えることになるという考え方だ。

こうした新しい社会のグランドデザインを描いた上で、話は「データの活用」に移る。
デジタル化では、まさに社会の実情をどのようにデータ化し、それをどういった解釈や目的で解析し、地域住民がデータをどのように共有して、暮らし目線のサービスを実現するのかという議論が進むことが望ましいと思う。

「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では、準公共の各分野が相互連携するデータプラットフォームについて、2025年までの社会実装を目指すとしている。
また、内閣府の次期SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)で2023年から「スマートモビリティプラットフォーム」が新たにプロジェクトとして立ち上がることが明らかになっている。

この中で、モビリティや交通を含む準公共分野でのデータプラットフォームについて具体的な議論が進むことになるだろう。
このほか、「デジタルを活用した交通社会の未来2022」では、地域社会における「自助・公助・共助」を重要視している。
この分野については、別の機会にご紹介したいと思う。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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