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ITS業界記事 ジュネーブモーターショーの“本当の注目”は、「歩行者保護」基準への対応強化

 中国版の1000馬力スーパーカーも登場

今年も、スイスのジュネーブモーターショー(一般公開2016年3月3日~13日)を現地取材した。
欧州のモーターショーは、9月に独フランクフルトモーターショーと仏パリモーターショーがそれぞれ隔年で開催される。一方、ジュネーブモーターショーは毎年3月に開催され、毎年1月の北米国際自動車ショー(通称デトロイトモーターショー)と共に、世界自動車産業界のトレンドウォッチに最適な場となっている。

ジュネーブモーターショーの特徴は、派手で華麗なスーパーカーたちだ。ジュネーブから南東に向い、スイスアルプスを越えて6時間ほど高速道路を走ると、イタリアのトリノに至る。その地には、「カロッツェリア(自動車工房)」と呼ばれる大手カーデザインスタジオが軒を連ねている。フェラーリと連携する「ピニンファリーナ」、現在はフォルクスワーゲン傘下となった「イタルデザイン」、そしてランボルギーニ「ミウラ」や「カウンタック」といった名車を世に送り出した「ベルトーネ」など。こうしてカロッツェリアたちが、独自のブースにコンセプトモデルで着飾る。
また、最近は英国製のスーパーカーの出展も増えている。これは、「マクラーレン」に代表される、世界最高峰の自動車レース「フォーミュラワン (F1)」を運営する企業。さらに、F1向けの高精度部品のサプライヤーなどが、世界的な「レース人気の低下」による売り上げ減少の穴埋めとして、スーパーカービジネスを強化しているからだ。
さらに今年は、中国製スーパーカーメーカー「テックルールズ」が世界初登場して、大きな話題となった。原動機としてジェットエンジンを使った四輪駆動のEV(電気自動車)で、最高出力は1000馬力を越える。同社の社長によると「中国ではジェットエンジンのみを製造し、車体と最終組み立ては英国のF1部品サプライヤーで行なう」という。

 2021年を意識したエコカー続々

大手自動車メーカーのブースに目を移すと、プラグインハイブリッド車の存在感が増している。メルセデスは直列4気筒2.0リッターエンジンに、9速オートマチックトランスミッションとモーター(65kw)を搭載するセダンモデルの「E350e」や、クロスオーバーSUVの「GLC350e AMATIC」。BMWは、直列3気筒1.5リッターエンジンとモーター(65kw)を積む小型クロスオーバー「225xe」、さらに直列4気筒2.0リッターエンジンに65kwモーターを搭載するセダンモデルの「330e」などをブースの目立つ位置に展示した。
日系メーカーでは、トヨタがクロスオーバーSUVの新型ハイブリッド「C-HR」の量産型を世界初披露。同車は、第四世代「プリウス」のパワートレインと車体を改良したものだ。また、レクサスでは2017年に登場する最高級クーペモデル「LC」のハイブリッド車を公開。2つのモーターと4速オートマチックトランスミッションを融合した、新システム「マルチステージ・ハイブリッドシステム」を搭載する。
この他、韓国ヒュンダイは、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、そしてEV(電気自動車)を同じ車種でフルラインアップするという、世界初の試みを発表して話題となった。
こうした一連の動きは、2021年から実施される欧州CO2規制を意識したもの。規制の内容は95g/kmと厳しい。自動車各メーカーにとっては、米国でのCAFÉ (企業別燃費)や、中国での厳格化が進むCO2規制やEV規制、さらに欧州CO2規制という世界3大市場での対応が必然なのだ。

それから、排気ガス規制がらみで、フォルクスワーゲンのブースでちょっとした事件が起きた。小型車「up!」の記者会見中、作業つなぎを来た不審な男が舞台に上がり、「up!」の下にもぐり込もうとしたのだ。彼は手に「チートボックス(不正用ボックス)」と書いたモノを持って「このクルマも修理しないと」と、にやけた顔で語った。すぐに会場の警備員に取り押さえられ、舞台から引きずり降ろされた。彼の正体は、英国人のコメディアン。昨年7月にはサッカー団体のFIFAの記者会見でも、ワールドカップでの賄賂問題を皮肉って玩具のお金を会見会場内にばら撒いたという過去がある。

 2016年からの歩行者保護、2018年からも夜間での対応も義務化へ

スーパーカーやエコカーが目立つジュネーブショー。だが、自動車メーカーが最も注目しているのが、2016年から強化される、ユーロNCAPによる歩行者対応の安全性能評価基準だ。ユーロNCAPはアセスメントとして、自動車メーカーの参加が事実上、義務化されている。その評価として5つ星を取ることが、商品広報の観点からも重要だ。
そうしたなか、トヨタのブースでは衝突安全ブレーキをVR (バーチャルリアリティ/仮想空間)を体験するコーナーを大きく展示した。
またBMWでは、最大出力600馬力の V型12気筒エンジン搭載の「M760Li xDrive」で、前方向けにステレオカメラを搭載。センサーが車両周辺の歩行者を感知すると、歩行者を赤枠で括るなどして、ドライバーに注意喚起する表示を採用した。
現在、ユーロNCAPの歩行者保護に関する基準は、2018年に“夜間での対応”を視野に入れた協議が進んでいる。自動車メーカーにとっては、CO2規制より一足先に歩行者保護に関する技術開発を強化せざるを得ない状況だ。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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