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ITS業界記事 EVを活用した「エネルギーマネージメント」ビジネスの展望

 ホンダが新事業戦略で強調した5つのキーファクター

最近、自動車産業界でよく耳にするキーワードのひとつに「エネルギーマネージメント」がある。背景には、欧州を基点に中国、アメリカ、そして日本でも市場導入が進んできたEV(電気自動車)の存在が大きい。

例えば、本田技研工業(以下、ホンダ)は2023年4月26日に東京・青山本社で開催した「2023 ビジネスアップデート~電動化を含む企業変革に向けた取り組みについて」の中で、ホンダがこれから注力する5つのキーファクターのひとつに「エネルギーマネージメント」を挙げた。
5つのキーファクターとは、エネルギーマネージメントのほか、「パワーユニットのカーボンニュートラル化」、「リソースサーキュレーション」、「IoT コネクテッド」、「AD/ADAS」である。

順に説明すると、「パワーユニットのカーボンニュートラル化」とは、エンジンやモーターなど自動車の原動機によるCO2排出量を軽減することを指す。
具体的には、ガソリン車・ディーゼル車という内燃機関自動車での燃費向上や、カーボンニュートラル燃料と呼ばれるような合成燃料の活用。そうした内燃機関とモーターを組み合わせるハイブリッド車やプラグインハイブリッド車のさらなる研究開発。そして、EVや燃料電池車の普及などがある。
ホンダは2040年までにグローバルで製造・販売する四輪車100%をEVまたは燃料電池車とする事業計画を2022年4月に公表している。

2点目の「リソースサーキュレーション」とは、従来のリサイクルの考え方をさらに広げるものだ。例えば、EVなどに搭載したリチウムイオン電池を定置型電池に転用するといったビジネスモデルがある。
続く3点目の「IoT(インターネット・オブ・シングス)やコネクテッド」については、V2V(ヴィークル・トゥ・ヴィークル:車車間通信)、V2I(ヴィークル・トゥ・インフラストラクチャー:路車間通信)、V2P(ヴィークル・トゥ・ペデストリアン:歩車間通信)など、自動車が様々な人やモノと通信でつながるV2Xという発想が、すでに実用化されているところだ。
今後は、車内をエンターテインメント空間にする発想がさらに進むことも考えられる。

そして4点目の「AD/ADAS」とは、自動運転や先進運転支援システムである。近年は、単に自動運転レベルを上げるといった技術中心の考え方だけではなく、乗用車または公共交通機関として社会実装した場合のコスト利便性を重視する動きが自動車産業界全体で強まってきている。
こうした4つのキーファクターと、「エネルギーマネージメント」を複合的に連携していくというのが、ホンダの戦略だ。

 本来、電気を使うEVは消費者にとって近い存在?

さて、近年は各メーカーから様々なEVが登場し、自宅、事業所、ショッピングモール、高速道路のサービスエリアなどで充電インフラが拡充されてきている。
そうした自動車業界内でのEVシフトは、エネルギーの供給・需給の視点から、これまでのガソリン車やハイブリッド車とは全く違う考え方が必要となる。
至極当然なことだが、EVで使う電気はEV専用につくられた電気ではない。電気は、自宅の家電製品や、会社やスーパーマーケットの業務機器など、消費者にとって水道やガスと並ぶ重要な生活インフラのひとつだ。

一方で、19世紀末に誕生し、20世紀に世界各地に普及した自動車を動かすためのエネルギーの大半は、ガソリンやディーゼル燃料など、化石由来の燃料である。
自動車をエネルギー補給するためには、消費者はガソリンスタンドに自ら出向いて給油する。見方を換えると、ガソリンやディーゼル燃料は、日常生活において他のモノに使うことはほとんどない。つまり、これらのエネルギーは、日常生活の中では特殊なモノだと言えるだろう。
一方の電気も、自宅や出先で充電するという行為が必要なEVや、自動車を動かすことに電気を使うことがこれまでの自動車の常識と違うため、身近な生活インフラとはいえ消費者の目には特殊なモノや行為に映っているのかもしれない。
私見ではあるが、消費者の日常生活を俯瞰すれば、EVは本来、消費者がもっと気軽に使うべき自動車に思える。

ただし、技術面では、ガソリン車やハイブリッド車と同程度の航続距離を走るためには、それらの数十倍もの長いエネルギー補給(充電)の時間を要してしまうのが現状だ。
そのため、消費者がEVを利用する場合、充電時間の長さというEVのデメリットを理解した上で、先々の行動の計画を立てなければならない。
こうした消費者のEVに対する思考そのものも、エネルギーマネージメントだと言えるかもしれない。

 蓄電池としての活用方法

さらに、EVを活用したエネルギーマネージメントとして代表的な事例がV2G(ヴィークル・トゥ・グリッド)だろう。
駐車中のEVを大きな蓄電池と位置付け、EVが自宅や会社の電気システムを介して、地域の電力網(グリッド)との間でエネルギーのやりとり(充電・放電)をする考え方だ。自宅や会社などにも太陽光パネルを設置し、再生可能エネルギーとしての電気を生み出し、EVを含めたエネルギーマネージメントを行う。

V2Gは単なるアイディアではなく、日産が2010年代から「リーフ」を使いV2Gを実用化している。また、政府が太陽光や風力など再生可能エネルギーのFIT制度(フィード・イン・タリフ:固定価格買取り制度)を推進したことで、V2Gの認知度は徐々に上がっていった。
だが、政府、自動車メーカー、そして電力会社が想定していたほどV2Gは普及していないのが実状だ。
理由はいくつかあり、例えば、グリッド内で個人や企業のメリットが明確化されていないこと、またEVの電池の劣化に対する責任の所在が不明瞭なことを指摘する声などがある。

一方で、FIT制度は基本的に10年契約のため、2010年代後半から契約の切れた消費者がFIT制度後の選択肢として、EVを活用したエネルギーマネージメントに興味を持つようにもなっていている。
そうした中、ホンダが推奨しているのが、「ビハインド・ザ・メーター」という考え方だ。
グリッドと切り離したシステムであり、自宅の電気システム内、または会社の電気システム内でエネルギーマネージメントを完結するというものだ。
これならば、グリッド内での利害関係もなく、またEVの電池劣化は自己責任として割り切ることができる。

 HSHSや鈴廣かまぼこ本社で実証実験

ホンダでは実際に、さいたま市内で社員が家族と暮らす実証実験住宅HSHS(ホンダ・スマート・ハウス・システム)を10年以上に渡り運用し、様々なハードウエアとソフトウエアを段階的に変更しながら、エネルギーマネージメントを多面的に検証している。
そうした基礎研究を支えに、小田原市の「鈴廣かまぼこ」本社でEVのホンダ「e」5台を使った企業向けエネルギーマネージメント実証実験を行っているところだ。
実証は2023年2月から2年目に入ったが、昨年1年間の実証では、電力を主体としたエネルギー費が前々年比で24%減、またCO2削減量では46%減と大きな効果を上げている。

今後、ホンダ以外の自動車メーカーや他業種が、EVを活用したエネルギーマネージメント事業に参入してくる可能性は十分に高いのではないだろうか。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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