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ITS業界記事 CES主催者「2020年代はデータ期」、米CESに見る自動車産業の変革 ~CES 2019レポート~

 トヨタのガーディアン(高度安全運転支援システム)、オープンソース化へ

「年始はCES(セス)で」。
近年、これが自動車産業界では関係者の合言葉になっている。
本連載でも過去3年間に渡り、CES(コンシューマ・エレクトロニクス・ショー)の現地レポートをお届けしてきた。
今回はCES 2019(2019年1月8日~11日、於:米ネバダ州ラスベガス)の模様をご紹介する。

CES 2019は現地時刻の1月8日(火)朝から開場し、その前の6日(日)と7日(月)にはラスベガス市内ホテルで報道陣向けの各種発表が行われた。
自動車関連で最も多くの注目を集めたのは、トヨタだ。トヨタはこれまで、自動運転に関する考え方として「ガーディアン」と「ショーファー」を主張してきた。前者は運転席に乗車した状態で走行するもの、後者は完全自動運転の領域で乗員は車内を自由に動き回れるイメージだ。

自動運転については、米SAE(自動車技術会)が示す自動運転のレベル表示が一般的な解釈だ。おおざっぱに見れば、トヨタの「ガーディアン」はレベル3まで、そして「ショーファー」はレベル4以上と思える。だが、今回の記者会見ではToyota Research Institute(トヨタリサーチインスティテュート)社長でトヨタ本社フェローのギル・プラット氏が「SAEのレベルの考え方と、我々の発想はまったく別物だ」と主張した。
その上で、トヨタとしては「ガーディアン」という考え方を、アルゴリズムとして、または量産車に実装するためのソフトウエアとして、オープンソース化するとした。

また、ここへきて、アウディやボルボなど自動運転技術の量産化で世界をリードしてきたメーカー各社がレベル3の社会実装の導入時期を修正する動きが出てきた。その理由は、法規制が進まないことではなく、実際に使うシチュエーションで社会の実勢に合致しないと思われることが多いからだ。

 後部座席乗車など、 VR(仮想現実)を使った自動運転のユースケース

そうした中で、自動車部品大手のティア1各社がCES出展で強調したのが「ユースケース」だ。自動運転が社会で普及した場合に、具体的にどのような使い方があるのかを明確にするというものだ。
これは、至極当然なことに聞こえるのだが、自動車産業界においては、とかく技術ありきで物事が進むことが多く、いわゆる出口戦略としてのユースケースを確立することを苦手としてきた。

具体的な事例として、仏バレオはVR(仮想現実)を使った後部座席乗車のユースケースを提案した。CES会場の屋外の仮設の施設で、実際に走行している車両の後部座席に自分が着座しているような感覚を味わることができた。たとえば、田舎でひとり暮らしをしている高齢の母親が、都会暮らしの息子の家族と一緒にドライブに出かける、といったユースケースだ。これまで、こうしたアイディアは机上の空論としては存在したが、こうして具体的な機器を装着して映像プログラムを体験してみると、単なる夢物語、または単なる玩具といった感覚ではなく、社会にとっての必要性を感じることができた。

この他、米半導体大手のエヌビディアは、レベル2の精度を上げた量産型の自動運転システムを発表した。あくまでもレベル2の領域までとした上で、運転中のドライバーの表情のモニタリングなどを行い、自動運転における安全性を高めた。

 2020年代は「データ期」。自動車業界のデータを社会全体で活用

さて、自動車関連のみならず、CES 2019全体を俯瞰してみて感じることがあった。
それは、データの重要性だ。こうした状況をCES主催者は「2010年代のコネクテッド・エイジ(コネクテッド期)から2020年代はデータ・エイジ(データ期)に移行する」と説明した。
そうなると主役として、世界規模で独自のクラウドサービスを持つアマゾン、グーグル(親会社はアルファベット)、アップル、そして中国のIT御三家であるバイドゥ、アリババ、そしてテンセントの存在感が増してくる。今回、グーグルは音声認識技術を中心とした大型展示施設を屋外に設け、アリババも音声認識技術とホーム用エンターテインメント系との連携について出展していた。

一方で、自動車関連のデータビジネスで注目されるのが、半導体メーカー各社だ。なかでも注目が集まっているのが、インテルが買収したイスラエルのモービルアイだ。独自の画像認識技術を用いた半導体の設計を行い、GM、フォード、日産、マツダなど自動車メーカー各社向けに量産している。そこから得られる各種のデータを解析することで、新たなるビジネス領域を一気に広げようとしている。

この他では、独コンチネンタルが町中にデータ収集用の機器を設置して画像などを収集し、自動車や公共交通機関を含めた町全体のデータ管理システムの構築を考案した。これまでは、自動車の通信やデータのやり取りは、V2I、V2V、そしてV2Xといった名称を使ってきたが、2020年代のデータ期には、自動車に関連するデータは、自動車業界だけでなく社会全体のデータの一部としての活用が拡がりそうだ。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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