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ITS業界記事 Maas(モビリティのサービス化)の競争。技術分野ではM&A、協業が加速。~米CESレポート~

 自動車産業界とCESの関わり方の変化

自動車産業界にとって毎年の恒例行事となった、米ラスベガスCES(Consumer Electronics Show:コンシューマ・エレクトロニクス・ショー)の時期がやってきた。
CESは、最新家電やIT関連メーカー、そして近年は自動車メーカー各社が次世代技術を披露する場として世界の注目を浴びている。

時計の針を少し戻すと、いまから20年ほど前の90年代後半、PC(パーソナルコンピュータ)の普及に伴い、PC関連のハードウエアやソフトウエアがCESの主役だった。そして2000年代中頃になると、タッチパネル式の電子端末機の初期型が登場し始めた。
さらに2000年代後半になると、スマートフォン時代へと突入。米グーグル(現アルファベットの系列会社)と米アップルの2強時代が始まり、スマートフォンありきの新しいビジネスモデルが次々と登場していった。
その過程で、自動車メーカーとCESとの関わり合いが変わっていった。

2000年代半ばまで、自動車産業にとってのCESは、カーオーディオやカーナビなど、いわゆる「アフターマーケット」での電気製品の出展の場だった。通信関連では、米ゼネラルモータース(GM)が、車載器システム(Embedded System)の「オンスター」を搭載した新車を発売しており、その販売促進の一環としてCESを活用していたに過ぎない。
そうした状況がスマホ登場によって大きく変わった。

当初は、車載データを自己診断システム「OBD(On-board diagnostics:オン・ボード・ダイアグノーシス)」の端子に小型通信器(通称ドングル《Dongle》)を取り付け、Bluetoothによってスマートフォンとデータを送受信する仕組みの商品が多かった。
その後、車載器とスマートフォンの直接的なデータ送信システムが登場。なかでも、スマートフォンの商品企画を先導できる立場のアップルとグーグルがそれぞれ、CarPlay(カープレイ)とAndroid Auto(アンドロイドオート)という独自プロトコルを確立した。
これに対して、自動車メーカー各社が参画するAGL(Automotive Grade Linux:オートモーティブ・グレード・リナックス)が、トヨタとリナックス協会の主導で立ち上がった。

 トヨタ「e-Palette Concept」など、MaaS(モビリティのサービス化)での競争へ

車載器とスマートフォンとの連携が契機となり、コネクテッドカーのビジネス領域が一気に広がった。それまでコネクテッドカーといえば、車載器と道路インフラとの協調(V2I)や、車載器どうしの協調(V2V)が主流だったが、スマートフォンの登場がコネクテッドカーの考え方を大きく変えた。
こうしたコネクテッドカーと連動するように登場したのが、量産型の自動運転システムだ。2012年に欧米で自動運転の走行レベルの定義が決まったことで、自動車メーカー各社は各走行レベルの達成目標を公表するようになった。

そしてコネクテッドカーと自動運転の融合に加えて、昨今はジャーマン3(ダイムラー、BMW、VWグループ)による事業戦略である「EVシフト」が加わった。
さらには、Uber(ウーバー)やLyft(リフト)のようなライドシェアリングが欧米で急速に普及したことで、シェアリングエコノミーが次世代自動車ビジネスの大きな要因として浮上してきた。こうしたビジネスは、モビリティのサービス化としてMaaS(Mobility as a Service)と称されることが多い。  以上のような、コネクテッドカー、自動運転、EVという3つの技術領域がMaaSという事業領域へとつながっていく流れが、ここ数年のCESで体験することができた。

今回のCESで見ると、ダイムラーが2016年9月から始めた事業戦略「CASE」を強調した。CASEとは、Connected、Autonomous、Shared、Electricの頭文字だ。その上で、ダイムラーはMaaSの新規ビジネスについては明らかにしていない。
これは、米フォードも同様で、MaaS を「街づくり」という概念で紹介するに留めた。

一方、トヨタはMaaSの量産化計画を明確に示した。それが、商用向けの自動運転EVの「e-Palette Concept」だ。トヨタがコネクテッドカー、EV、自動運転の3つの技術をひとつのプラットフォームでまとめた製品である。今回の発表では、連携する企業として米アマゾン、中国のライドシェアリング大手のDidi Chuxing Technology(ディディ)、米宅配ピザ大手のピザハットなどが参画し、今後さらに参画企業が増える見込みだ。

 技術分野では、ティア1のM&A、協業が加速

次世代自動車ビジネスにおいて今後、自動車メーカーでのMaaSの競争が激しくなる中、技術分野での競争の場は部品メーカーであるティア1に移った。

今回のCESで目立ったのは、中国のIT大手の百度(バイドゥ)が進めている自動運転事業「アポロ計画(Project Apollo)」だ。米エヌビディアなどが参画しており、ここに、変速機(トランスミッション)大手の独ZFが加わることが明らかになった。 また、米インテルは、走行している多数の車から単眼カメラ(Single Camera)で画像データを収集し、それをクラウドに送ることで自動運転に必要な地図を生成するシステムを、自動車メーカーや自動車部品メーカー向けに販売する計画を強調した。

この他、自動運転向けの地図データでは、車載器向けの大手である独ヒア(Here)に対して、これまでのジャーマン3とインテルに加えて、独ボッシュと独コンチネンタルも出資することになった。
こうした動きに対して、自動車部品大手の米デルファイは、自動運転ベンチャーのニュートノミー(nuTonomy)を買収し、デルファイ・オートモーティブをAPTIV(アプティブ)と社名変更した。同社の技術を搭載したBMWによる、ライドシェアリングのLyftとの協業も発表した。
このように、コネクテッドカー、自動運転、そしてEVやFCV(Fuel Cell Vehicle:燃料電池車)などの技術領域では今後、さらなる業界再編が進みそうだ。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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