上海モーターショー(一般公開:2019年4月18~25日)が開幕。上海虹橋空港近くの大型コンベンションセンターには、欧米、日本、韓国、そして中国の自動車メーカー各社が最新モデルやコンセプトモデルを一斉に展示した。
中国でのモーターショーは、湾岸部の大都市や内陸部の中級の各都市で定期的に行われている。その中でも、世界初公開のモデルが多数登場するのが、隔年で開催される上海モーターショーと北京モーターショーである。
会場内でまず目を引いたのは、SUV(Sports Utility Vehicle:多目的スポーツ車)だ。近年、中国では「80后(バーリンホウ)」と呼ばれる80年代生まれの世代を中心に、売れ筋商品がセダンからSUVへのシフトが進んできた。SUVシフトが始まった当初は、一時的なブームとも言われていたが、今回のショーを見る限り、SUVシフトは本格化しており、中国メーカーは大手から中堅までSUVを中心としたモデルラインアップを強化していることが分かる。
一方、欧米、日本、韓国のメーカーもSUVシフトは意識しているものの、中国以外の市場で販売しているモデルの販売もおろそかにできない、といった立場を崩さない。
もうひとつ、会場内で多かったのがEV(Electric Vehicle:電気自動車)だ。ドイツのフォルクスワーゲンは「ID.ROOMZZ」、またトヨタは「C-HR EV」を世界初披露した。
こうした動きは、中国共産党本部の政策を考えると当然だといえる。
中国では2019年から、自動車メーカーに対してEVやプラグインハイブリッド車などの電動車の販売で一定数を義務化した。NEV(ニュー・エネルギー・ヴィークル)規制である。もし、この義務台数をクリアできなければ、自動車メーカーは政府に対して多額のペナルティ金を支払わなければならない。
こうした仕組みは、米カリフォルニア州環境局が実施している、ZEV(ゼロ・エミッション・ヴィークル)規制を参考としている。中国の国立自動車研究所に相当する中国自動車技術研究センター(CATARC)がカリフォルニア 州環境局と協議して開発した。
このようなEV義務化の動きによって、欧米や日本メーカーのみならず、中国ベンチャー企業の多くからも、EV技術とSUVを融合させたモデルが数多く展示されていた。
次に、自動運転についてである。
近年の上海モーターショーや北京モーターショーでは、中国地場メーカーから様々なタイプの自動運転コンセプトモデルが発表されてきたが、そうしたトレンドは今回、少し収まったような印象だ。
だたし、これはけっして中国での自動運転が実現できる見込みがなくなったことからショーでの出展が減ったのではない。中国での自動運転は本格的な実用化への最終準備段階に入っており、そのためショーでのコンセプトモデル展示の必要がなくなった、と見るべきだろう。
自動運転は、乗用車に対する高度運転支援システム(ADAS) の領域である自動運転レベル1~3、また公共交通としての役割が主体となる完全自動運転のレベル4~5に大別できる。ADASについて、中国地場メーカーは、欧米や日本の自動車メーカーや自動車部品メーカーとの協業を主体として開発を進めている。
一方の完全自動運転については、中国IT大手のバイドゥやアリババが開発する高精度な三次元地図の活用など、ビッグデータに関するビジネスで中国独自の動きが加速している印象がある。
こうした中国政府や中国IT企業、そして中国地場の自動車メーカーに対して、欧米の自動車部品大手が積極的な売り込みをかけている。
具体的には、ドイツのZFがアメリカの半導体大手エヌビディアと連携を強化して、バイドゥの自動運転計画「プロジェクトアポロ」への積極的な関与。また、ドイツのコンチネンタルはタイヤの内側にセンサーを仕込み、車両の走行状況をデータ化する技術の販売促進を強化するといった事例が見受けられた。
また日系ではパナソニックも「プロジェクトアポロ」に活用する完全自動運転車での技術提携を行っており、実験車両を展示した。
コネクティビティの分野では、中国の通信大手チャイナモバイルが、完全自動運転の宅配用自動ロボット、そして小型自動清掃車を並べて展示した。
ただし、こうした各種機器が5Gを活用したオペレーションシステムでどのように運用されるかの説明はなかった。
中国ではすでに、複数の都市でスマートシティ構想が具体化しており、そうした中で5Gを活用したモビリティ実証が着々と進んでいる模様だ。
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。