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ITS業界記事 ホンダの次世代予防安全技術
~ESV27取材を通じて~

 7つの安全技術

ホンダは、横浜で開催された自動車の安全技術の国際会議ESV27(2023年4月3日~6日)で次世代技術に関する展示を行った。
「2050年に全世界で、ホンダの二輪車・四輪車が関与する交通事故死者ゼロを目指す」という高い目標を掲げている。そのために、「全ての交通参加者が交通事故リスクから解放され、安心して自由に移動できる社会づくりに貢献するための先進技術」を展示した。

展示技術内容は、以下の7つだ。箇条書きとする。

  • 安全・安心ネットワーク技術
    それぞれの交通参加者の行動と状態を推定し、交通シーンに応じたリスク認知支援情報の提供。
  • ヒト状態推定と能力拡張HMI(Human Machine Interface)
    バイタルモニタリングとドライバー状態推定技術により、状態に応じた支援をする技術。
  • コミュニケーション ライティング テクノロジー
    車両の灯体を用い、リスク認知と相互理解を支援する技術。
  • 二輪リスク認知支援HMI
    四輪車からの被視認性向上とライダーのリスク認知支援技術の提案。
  • 二輪エアバッグ
    リアルワールドでの多様な衝突形態に対応した新・二輪車エアバッグ。
  • 二輪車運転支援技術 実証実験
    二輪車へリスク情報や自車の周囲情報を通知し、事故回避を支援する技術。
  • リアルタイム運転コーチングシステム
    運転行動モデルによる運転診断と、リアルタイム音声アドバイスで安全運転の習得をサポートする技術。

これらは、単独の技術として展示されるものと、複数の技術を複合してハードウエアとして展示されるものがあった。

 ホンダのADASについての量産の考え方

ホンダはこれまでも、ADASに関する基本的な方針を説明してきた。
グローバルで見ると二輪車と四輪車、また国や地域で交通環境は大きく異なる。例えば、東南アジアの一部地域では、小型二輪車に3人以上も乗車することが日常行為になっている。そうした二輪車中心の社会体系が国や地域の経済発展によって、四輪車の需要が拡大してくる場合が多い。
一方で、先進国では四輪車を中心とした社会体系が成熟期に入っており、車内でのスマートフォン利用による運転の安全性の低下や、高齢ドライバーによる事故の増加も顕著になってきている状況だ。
また、CASE(通信によるコネクテッド、自動運転、シェアリングなどの新サービス、電動化)による技術革新によって、ADASを含む自動車の安全技術で新しいビジネスモデルも登場してきている。

こうした状況の中で、ホンダは5E視点を掲げている。Evaluation (事故分析・行動分析)、Education(交通安全教育)、Engineering (安全技術・インフラ)、Enforcement(車両法規・道路交通法)、そしてEMS(救急医療)の5つである。
今回のESV27では、5Eのうち、Engineering(安全技術・インフラ)に関する技術展示が主体となった。

 課題はモビリティプラットフォームの標準化

ホンダの技術展示で、まず最初に目を引いたのは、鮮やかなイエローカラーの「ホンダe」だ。
「ホンダe」は、ホンダが欧州市場でのCO2排出規制を念頭に、日本など他の市場での使い勝手も考慮して開発したEV(電気自動車)である。
今回の展示モデルの特徴は、ホンダが独自開発した情報通信プラットフォーム「安全・安心ネットワーク」を活用して、「ホンダe」の安全技術を向上させるものだ。
例えば、「ホンダe」が交差点で右折する際、対向車線から直進する二輪車を確認しづらい状況の場合にドライバーへの注意喚起のため車内でライトが光り、一方の二輪車にも前方に右折車がいることを事前に知らせることで、事故のリスクを軽減する。
同様に、「ホンダe」と歩行者の間でも、車両や人の接近を事前に車載器やスマートフォンを通じて教え合う。
また、「ホンダe」のボディ側面には、横方向に長い配列をしたライトがある。これがイエローの場合は、歩行者に対して注意喚起をし、またグリーンの場合はクルマ側が歩行者を認識しているので安全だというクルマ側の意思を示すものだ。
こうした、V2V(車車間通信)やV2P(歩車間通信)については、ホンダのみならず自動車メーカー各社や大手自動車部品メーカー各社が研究開発を進めている。
その上で課題は、ホンダで言うところの「安全・安心ネットワーク」である情報通信プラットフォ-ムの基準化と標準化だ。
直近として、欧州ではドイツのフォルクスワーゲングループやボッシュが、交差点付近でのV2VとV2Pについて、事実上の標準化であるデファクトスタンダードを目指す動きもある。
日本においては、次世代技術に対して内閣府が主導し産官学連携を進めるSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)で、2023年度から新たに「モビリティプラットフォーム」が始まっている。
こうした枠組みの中で、ADASに係るプラットフォームの議論が進むことを期待したい。

 東南アジアではスマホアプリ活用のV2V

一方、東南アジアでは二輪車を使ったV2Vの実証試験を行っている。
タイのバンコクなどの市街地では、行政機関が市街地で数百メートル毎に交通情報を収集するためのカメラを設置している。
ホンダはこのカメラ映像を行政機関から入手し、ホンダ独自の機器で解析し、その情報をサーバ経由で二輪車に乗る人のスマートフォンに通知する。ヘルメットにはBluetoothでスマートフォンと連携するヘッドセットを装着して、二輪車に乗る人へ、前方で発生した事故などの運転中のリスクを音声で知らせる。
また、インドネシアでは二輪車の前方と後方にカメラを搭載し、自車周辺の状況をシステムが解析し専用機器「リスクインディケーター」で、色分けしたリスク表示を行う仕組みもある。
こうした東南アジアで始まったV2V技術は日本においても、二輪車だけではなく、自転車、そして今後需要が一気に増えると予想される新しい法規準の電動キックボード向けなどで導入が期待される。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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