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ITS業界記事 人材育成を目指す、オンライン自動運転コンテスト

 フードデリバリーサービスを想定した自動運転・技術コンテスト

2020年12月、自動運転の未来を占う上で興味深いイベントの表彰式があった。

公益社団法人 自動車技術会が主催した「第2回自動運転AIチャレンジ」である。
自動車技術会は、自動車メーカー、部品メーカー、大学などの教育機関が参加する、日本でも最も権威のある自動車関連技術の学会だ。

大会委員長で、政府のSIP自動運転プログラムディレクターも務めるトヨタ自動車・先進技術カンパニー・フェローの葛巻清吾氏は「我々はいま、AI人材の育成が急務だ」と自動車産業界の実情を指摘した。
自動車産業は「100年に一度の大変革期」を迎えており、通信によるコネクテッド技術や自動運転技術の研究開発では、ソフトウエアに関わるエンジニアの重要度が増しているのだ。

そうした中で、既存の自動車産業だけではなく、ITや電機関連産業、そして学生に自動運転を通じて未来の自動車開発に興味を持ってもらうため、自動運転AIチャレンジが企画された。

第1回は東京大学・生産技術研究所付属千葉実験所(柏キャンパス内)で2019年3月24日~25日、小型カートを使った自動運転車を実際に走行させる競技を行った。
第2回についても2019年同様の形式で2020年6月開催を予定していたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で中止された。
その代わりに考案されたのが、オンラインでの競技である。
シミュレーション予選の上位チームや、連携競技である第2回AIエッジコンテストの上位者によって、決勝は2020年9月23日~11月6日に実施された。

競技は、フードデリバリーサービスを想定した。コロナ禍で、物流と防災の観点から自動運転車による配達に期待する声が多いからだ。
本競技では、自動運転車がいくつかの課題をクリアしながら、注文品を損なうことなく迅速丁寧に届けるという設定とした。

シナリオでは、主催者があらかじめ定めたルート上で、チェックポイントを通過する。
最大速度は30km/hでそれを超えると失格。制限時間は5分で、それを超えると失格。
地図上の地物、車両、歩行者などに衝突すると失格。それらを避けるため一時停止しても、または停止せずに回避することも可能だ。
使用するソフトウエアは、オープンソースのAutoware。参加者はシナリオをクリアするよう、ソースコードを作成。ローカル環境で検証した後、オンライン環境でソースコードをアップロードする。
ただし、ローカル環境とオンライン環境では地物・車両・歩行者の登場タイミングは異なる設定とし、競技性を高めた。

結果は以下の通りだった。
最優秀賞は、NTTデータオートモビリジェンス研究所の、チーム gatti。
タイムは、112.965秒。
優秀賞は、トヨタ自動車のShallow Learners(129.546秒)。
3位入賞は、サン電子のtomo123(149.997秒)。

チーム gattiは、「通常業務の中で活用している技術を応用した。障害物を避ける際に停止しない手法を取ったことがタイム削減に効果的だった」と勝因を分析した。
また、Shallow Learnersはトヨタ自動車の所属だが、実務として自動運転などの開発に携わっているメンバーではないという。
tomo123は「入賞できるとは、まったく予想していなかった」と驚いた様子だ。他の入賞チームとは違い、個人としてのエントリーであり、Autowareを扱うことも初めて。当初はかなり苦労したが、これまでのIT関連の知見を活かして見事3位入賞を果たした。

  実施要項のモデルは、福井県永平寺町とDARPAロボティクスチャレンジ

今回の自動運転AIチャンレンジの実施要項を決めるプロセスに、筆者も加わった。
筆者からの提案は、大きく2点あった。

1点目は、世相を反映することだ。そこで、フードデリバリーを取り入れた。
具体的な事例としては、福井県永平寺町で実用化している、オンデマンド交通を利用したフードデリバリーサービスがある。トヨタのミニバンを使い、通常は買い物や通院などに向かう高齢者の移動手段として使用しているが、コロナ禍で町内の飲食店からお弁当等を個人宅に配達する事業を期間限定で行った。このオンデマンド交通は、地域の方がドライバーを勤める、自家用有償旅客運送という手法を使っている。
また、永平寺町内では、廃線跡の遊歩道を利用した自動運転の実証試験を、経済産業省と国土交通省の支援によって実施中だ。2020年12月後半から、全6kmのルートのうち、永平寺町への観光利用が多い約2km部で実用化した。
筆者は、こうした永平寺町の新しい交通システムの政策に対し、永平寺町エボルーション大使として現地で様々な活動を行っている。
そうした実体験をもとに、オンデマンド交通と自動運転を机上で融合させるイメージで、AIを使ったコンテストへの応用を思案したのだ。

2点目は、防災だ。コロナ禍での防災という観点では、アメリカ国防総省高等研究計画局(DARPA)が2015年に開催した、災害ロボットによるコンテスト「DARPAロボティクスチャンレジ」を参考とした。
これは、福島第一原発での事故での緊急対応を想定し、ロボットが様々なタスクを実際に行うもの。筆者は米ロサンゼルス郊外で行われた決勝を取材している。

自動運転の社会需要性については、個人所有のオーナーカーと、公共交通や物流サービスで活用するサービスカーという、2つの領域で考える必要がある。
今回の、オンラインでの自動運転AIチャレンジでは、単なるソフトウエア開発コンテストだけではなく、社会課題を解決するという目的意識を参加者に持って頂きたいと思った。
今後も、実車によるリアルワールド、またオンラインでのヴァーチャルワールド、双方から自動運転と社会との関わり方を、産官学が連携し、そこに住民が加わる協議を続けることが、自動運転実現向けて重要だと思う。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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