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ITS業界記事 「認証不正」問題で感じる疑問点

 5社による公表と、ダイハツ・日野事案との違い

再び、「認証不正」が世間で大きな話題となっている。
トヨタ、マツダ、ホンダ、スズキ、ヤマハ発動機の5社が6月3日、型式指定の申請に関する認証不正を公表したからだ。

昨年12月、ダイハツが型式指定の申請に関する認証不正で調査報告を行い、多種多様な不正が発覚。これを受けて、国内生産がすべてストップするという異常事態に陥った。
これをきっかけに、国土交通省は自動車メーカーや自動車部品メーカーに対して過去に遡って、型式指定の申請に関る認証不正を自主調査するよう要請していた。
その中で、5月末時点での状況についてトヨタ、マツダ、ホンダ、スズキ、ヤマハ発動機が国土交通省に報告したのだ。
会見したトヨタの豊田章男会長は「現時点での調査報告」であるとして、調査は継続しており、場合によっては、他の認証不正が見つかる可能性を否定しなかった。

筆者は今回の事案について、トヨタの会見に参加し、その前後で他の場所で実施されたマツダとホンダの会見をトヨタの会見会場でオンライン視聴した。
そうした中で、いくつか気になった点があった。

第一に、ダイハツの事案や、その前の段階で多数の認証不正が発覚した日野の事案との違いだ。
ダイハツと日野の場合、「製品の量産化のリードタイムが短く、認証部門の担当者の精神的なプレッシャーが大きかった」、または「担当者レベルで認証不正を認識していても、上司に対して進言できるような社内の雰囲気がなかった」といった、企業としてかなり根深い問題が露呈した。
一方、今回のトヨタ、ホンダ、マツダの場合、「認証試験に対する担当者の認識の誤り」という部類に属する印象があった。
その上で、「クルマの安全性について技術的には問題はないが、法令遵守していなかった」という発言が目立った。

トヨタ、ホンダ、マツダとも各社のユーザーに対して「クルマの安全性については、自社で再試験を行っており、その結果に問題はなく、そのままクルマをお乗り頂いても大丈夫」とコメントしている。

この点について、各社会見の翌日と翌々日に筆者が出演した、テレビやラジオの情報番組やニュース番組で司会者らから「メーカーの真意が分かりかねる」という指摘があった。
これに対して筆者は「あくまでも自動車メーカーとしての見解」として、認証不正に関る件で何らかの問題が発生した場合、メーカーとしてユーザーや自動車販売店に対して補償をするということだと説明した。
さらに「本来、国土交通省の立ち入り調査、その後に立会い検査が行われるなどして、その結果、国土交通省から問題がないという発表を待って、ユーザーとして安全性を認識できる」とも指摘している。

 認証の「性善説」

あらためて、型式指定とは何か説明しておきたい。
国土交通省が所管する、独立行政法人 自動車技術総合機構の交通安全環境研究所によれば、次の通りだ。

~自動車を購入し使用する際は、その自動車が安全面や環境面での基準に合致していることを運輸支局等で行われる検査により1台1台確認することになっている。この試験を効率的に行うため、自動車、共通構造部及び自動車装置が安全・環境基準に合致しているか否かを販売前の段階で確認すること~

つまり、型式認証は、自動車メーカーが新車を量産するために必要不可欠なプロセスだと言える。
また、トヨタが示した図表によれば、認証システムには大きく2つある。
ひとつは、自動車メーカー自己認証で、生産・販売前に基準適合を確認。これを、国の機関が量産車から抜き取り試験で行う。
もうひとつが、政府認証。ここでは、「認証機関の審査官による立会い試験」のほか、「自動車メーカーが自ら実施する認証試験」と、「開発試験での有効データを認証データとして提出する」という、合わせて3つのプロセスがある。

今回明らかになった5社の事案では、政府認証での「自動車メーカーが自ら実施する認証試験」と「開発試験での有効データを認証データとして提出する」プロセスで発覚した。
これらは、いわば「性善説」によって成り立っているため、不正行為は自動車メーカーと国との信頼関係を揺るがす大きな問題だと言えよう。

再発防止策について、トヨタは豊田章男会長が主導する形で、認証業務「TPS(トヨタ生産方式)自主研究会」を発足させ、トヨタグループ全体で認証業務の実状を調査した上で、再発防止に向けた具体的な動きを考慮する。
また、ホンダは認証業務に関するデジタルトランスフォーメーション(DX)を、年内を目処に取りまとめるとしている。

さらに、自動車メーカーなどで構成される業界団体の日本自動車工業会が中心となり、型式指定における認証のあり方や、手法について業界内での意思統一を図ることになるだろう。

私見では、国においても認証業務におけるさらなるDX化を進めるべきだと思う。
また、予防安全や新規の排ガス規制など、海外における最新の認証事例や自動車アセスメントと日本の認証との、より綿密なすり合わせ等についても活発な議論を行うべきだと考える。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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