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ITS業界記事 準天頂衛星システム(QZSS)の概要と、東京オリンピックなど本格実用に向けた動き ~G空間EXPO 2016レポート~

 G空間EXPOと準天頂衛星システム

今年も、G空間EXPO 2016(2016年11月24日~26日、日本科学未来館〔東京お台場〕)の季節がやってきた。G空間とは、地理空間情報高度活用の総称である。G空間EXPOは、その広報活動の一環として、また関連する企業や行政機関を主体とする各種シンポジウムの場として開催されている。

背景には、日本政府が推進している、2018年からの準天頂衛星システム(QZSS : Quasi-Zenith Satellites System)の実用化がある。準天頂衛星システムは、2011年9月に閣議決定された日本の宇宙戦略のひとつで、アメリカのGPS(Global Positioning System)を補完するシステムである。現在は、実証実験用として準天頂衛星1号機の『みちびき』が軌道を回っており、2017年にはさらに3機を打ち上げ、当面は4機体制で運用される。また、4機体制における実績によって追加予算が確保できた場合、さらに3機を打ち上げて合計7機体制になる可能性がある。

 衛星測位の技術革新と普及

GPSについて1994年、当時のビル・クリントン大統領が、米空軍や管理運営している衛星から発信される電波の一部を民間向けに開放するための法案に署名した。これに伴い、衛星測位に関する民間企業の技術革新が急速に進んだ。

そのなかでも、日本では1990年代中盤から車載カーナビゲーションの普及が進み、GPSという名前が一般的に知られるようになった。また、2000年代に入ると、携帯電話にGPS機能が装備され、2000年代後半からはスマートフォンの登場によって地図などでのGPSの必要性が一気に高まった。

こうした経緯でGPSの普及が進んできたが、日本の場合、全土で森林が多い山間部や、高層ビルが多い都心部では、GPSの受信状況が悪いという事情がある。GPSは、三次元の測位には最低4機、また二次元の測位では最低3機からの信号を受信する必要がある。また、測位精度を上げるためには、それらの衛星が天空のなかで、より広い範囲に散らばった状態であることが望ましい。

そうしたなか、日本の衛星技術者が、最低1機は日本上空の「ほぼ真上」にいることを考案した。これを、「準天頂」と呼んだ。常時、1機の準天頂衛星があることで、GPSは3機あれば三次元の衛星測位を行うことができる。また、信号を無償で借りているだけのGPSとは違い、準天頂衛星では日本固有のサービスを各種信号のなかに盛り込むことも可能である。

 準天頂衛星システムの運用と、日本のオリジナルサービスへの期待

準天頂衛星は、内閣府の宇宙戦略を母体として、準天頂衛星システムサービス株式会社を経て、日本電気株式会社(NEC)と三菱電機の2社が実際の運用を行っている。
役割分担としては、NECが総合システムの設計・検証と、準天頂衛星システムの運用を行い、地上設備の整備と維持管理については三菱電機と共同で行う仕組みだ。この流れとは別に、国の直轄事業として、衛星の整備を三菱電機が行う。

次に、準天頂衛星の技術詳細について紹介する。
当面運用される4機は、そのうち3機が日本上空からオーストラリア上空までの上空を8の字を描く軌道に乗る。3機はそれぞれ迎角20度以上に16時間留まり、日本上空に8時間留まる。つまり、8時間×3機で24時間、日本の準天頂に最低1機が留まることになる。
また、もう1機は3機に対する各種のバックアップ用で、静止衛星として赤道上に留まる。

準天頂の軌道に乗る衛星は縦2.8m×横18.9m×高さ6.2mの寸法で、H-II202ロケットで打ち上げる。一方で、静止軌道に乗る衛星は、縦7.1m×横18.9m×高さ5.4mの寸法で、ロケットはH-IIA204を使用する計画だ。
使用する信号は、L1C/A、L1C、L1S、L2C、L5、L5C、L6、そしてSバンドの合計8つ。
このうち、通常の衛星測位では、L1C/A、L1C(共に中心周波数が1575.42MHz)、L2C(1227.60MHz)、L5(1176.45MHz)の4つの信号を使う。これら複数の周波数信号を受信することで、衛星信号の電離層での伝搬遅延による測位誤差を改善することが期待されている。

また、サブメーター級測位補強情報のL1S信号を使うと、測位精度(95%値)は日本の陸上の場合、水平方向で1m、垂直方向で2mまで高まる。さらに精度の高い、センチメーター級測位補強信号のL6信号も準備されており、静止物では水平方向で6cm、垂直方向に12cmと飛躍的に精度が向上する。またクルマなどの移動体でも、水平方向に12cm、垂直方向に24cmと精度が高い。これは、地上でのGNSS受信機の他に、全国にある電子基準点や管理局との通信が加わることで、現在測量などで使われているRTK(リアル・タイム・キネマティック)測量と同じような測量の考え方を実現している。
こうした衛星測位の他に、準天頂衛星は、L1S信号を使って地震や津波などの災害や、テロなどの危機管理通報サービスとして、車載器やスマートフォンに情報を発信することが可能だ。

また、これまでは受信のみで利用してきたGPSに対して、準天頂衛星に情報を送信することが可能だ。例えば、遭難した場合や災害時などに、スマートフォンなどから安否確認の情報を送ると、準天頂衛星を経由して地上の管制局が受信したデータを電子メールで発信することができる。

 東京オリンピック・パラリンピックにむけたナビ本格実用化の動き

このように、多様な用途での利用が期待される準天頂衛星。具体的な活用方法として、現時点で軌道に乗っている『みちびき』1機を使った実験が行われている。

例えば、国土交通省が2016年11月30日から2017年2月28日まで実施する、『屋内での移動を支援するナビゲーションサービス』がある。 実施場所は、JR東京駅周辺、JR新宿駅周辺、成田空港、そして横浜の日産スタジアムの4ヶ所だ。
これは、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックを見据えた動きである。

訪日外国人や高齢者、また障害のある人たちなど、誰もが目的地へ円滑に移動するためのバリアフリー・ストレスフリー社会を目指すとしている。室内用のビーコンはWi-Fiと、GNSSと活用した小型機器を活用する。この他にも来年2017年は、準天頂衛星・4機体制となる2018年を控えて、実用化を目指す様々な実証実験が行われることになる。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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