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ITS業界記事 フランス車が人気。「ライフスタイル系」のブランド戦略

 新型フランス車のオンライン発表が相次ぐ

日本で最近、フランス車に注目が集まっている。背景に何があるのか?

輸入車といえば、メルセデス・ベンツ、BMW、フォルクスワーゲン、アウディなどドイツ車が定番。スーパーカーと言えば、フェラーリ、ランボルギーニのイタリア車。超プレミアムでは、ロールスロイスやベントレー等の英国由来車のイメージが強い。ボディサイズが大きく、豪快なイメージでユーザーの遊びごころをくすぐるのはアメリカ車。一方で、フランス車と言われても、明確なイメージがつかみにくい。
それが一般的な日本人感覚だと思う。

そんな中、フランス車の新車シトロエン「C4」とプジョー「208」のオンライン発表会が6月末から7月上旬にかけて相次いで行われた。

まずは、シトロエン「C4」。ドイツ車ならフォクワーゲン「ゴルフ」、日本なら「カローラ」や「マツダ3」など、世界市場ではCセグメントと呼ばれる小型車に属する、5ドアハッチバック車だ。
ボディ寸法は、全長4,360mm×全幅1,800mm×全高1,525mm。ガソリン車、ディーゼル車のほか、最大出力100kW・満充電での航続距離350kmのEV(電気自動車)が加わった。
この「C4」が日本でも注目されている理由は、「C4」そのものというより、最近のプチ・シトロエンブームとも呼べるような日本のトレンドにある。

 ネット販売、100台が5時間で完売

2019年10月19日(土)午前9時から、シトロエンのミニバン「ベルランゴ」(325万円)の日本デビューエディションとして限定100台ネット予約販売が始まった。

すると、販売開始から5時間半で完売してしまった。11月30日にも追加販売されたが、こちらも短時間で完売した。正規販売は2020年秋を目途としている。
人気の理由は、外観や内装での独特なデザイン。ミニバン文化が世界で最も進んでいる日本車にはない、デザインのエッセンスがある。

さらには、ディーゼルエンジン。軽いアクセルワークでの力強いトルク感と、ガソリンに比べて2割程度安いディーゼル燃料と燃費の良さが魅力だ。日本でのミニバンディーゼル車は、三菱「デリカD:5」のみである。

実はベルランゴ、2018年9月に欧州で発売され2020年3月時点で20万台を売る人気車なのだが、需要の約2/3は商用車だ。
同じく日本で根強い人気があるルノー「カングー」も欧州では商用車だが、こちらは欧州での需要のほとんどが商用車で、日本では独自に乗用化というトレンドになった。
このパターンは、90年代に日本でブームとなったシボレー「アストロ」と同じだ。アストロもアメリカで乗用するユーザーは稀だった。日本でのアストロブームは、自動車雑誌などが並行輸入業者と連携して仕掛けたものだった。

カングーについても、一部の自動車メディアなどの影響はあるものの、SNSなどユーザー発信型の情報でさらにユーザーが増えている印象がある。
一方、ベルランゴには、メーカーによる巧妙なブランド戦略が見て取れる。

 「ライフスタイル系」戦略でのマネタイズ

シトロエンというと、1940年代や1950年代に開発され1970年代まで製造と販売が続いた、クラシカルな風貌の小型車「2CV」や、ハイドロリックサスペンション(いわゆる空気ばね)を採用した「DS」など、フランス文化の香りがする魅力的なモデルをイメージする方も多いはずだ。「2CV」はいまでも、日本のファッション雑誌向け撮影のアイテムとして登場することがある。

こうした独自性が強いデザインや技術を長期間に渡り維持したことが、結果的に経営難を引き起こし、プジョーに事実上、吸収合併されることになった。
1970年代当時、「DS」後継となる初代「CX」を日本で試乗し、ハイドロリックサスペンションの不思議な乗り心地に感動を覚えた者として、シトロエンの経営形態の変化による新たなる商品戦略に対し一抹の不安を感じた。

1980年代~2000年代、シトロエンは様々な試みを行うものの、「決め手に欠ける」という印象がつきまとった。大胆なデザインコンセプトモデルには魅力を感じるものの、それが量産化されることは少なかった。
そんな中、2010年代に入り、現在まで続くブランド戦略に大きく舵を切った。

プジョーとの部品共用性を高めながらも「ユーザーの多様なライフスタイル」を明確な出口戦略として描いた商品企画を進めたのだ。
そうしたシトロエンのブランド戦略を見える化したのが、2019年11月に東京・二子玉川駅隣接の商業施設二子玉川ライズで開催した「シトロエンの家」だ。家をモチーフとした展示スペースに、量産各モデルとベルランゴを散りばめた。

コンセプトは、「コンフォート(居心地が良い)空間、大胆さ、人間性らしさ」である。
「家=クルマ」という発想ではなく、ブランド全体のイメージとして、生活を包み込む存在意義を「家」として表現した。日常生活の中で、クルマと人との関わりが変化していることを示す。いわゆる「ライフスタイル系」と呼ばれるような社会のニーズが、シトロエンを後押ししている。

 ブランド戦略の効果。次ステージへのキーポイントは「EV」

「シトロエンの家」に象徴されるシトロエンのブランド戦略は成功といえる。
今回、新型「C4」オンライン発表でシトロエンブランドCEO(最高経営責任者)のビンセント・コビエ氏は、その戦略を推進したことで、欧州での過去6年間の販売台数が30%増と右肩上がりにあると強調した。
その上で、新型「C4」は、シトロエンのブランド戦略が次のステージへステップアップするための重要な階段にあると思える。
キーポイントは、EVの「e-C4」の存在だ。
出力100kWのモーターで、電池容量は50kWh。0~100km/hの加速は9.7秒。満充電での航続距離は350km。今回の発表では日本導入については語られていない。

一方、「C4」とプラットフォームを共有するプジョー「208」は日本導入モデルとして紹介された。「e-208」(389万9000円~)の航続距離は340kmと明記され、日本では当然、急速充電システムのCHAdeMO(チャデモ)に対応する。
また、ガソリン仕様は、近年の欧州でCO2規制対応として普及が進んでいるダウンサイジングターボとして1.2リッターターボエンジン(239万9000円~)を用意した。
プジョーとしては、日本を含めて世界市場で、EV専用車ではなくEVとガソリン車という2つの選択肢を同じモデルで持たせることで、EVのさらなる普及を目指す。

シトロエンについても今後、「シトロエンの家」というブランド戦略の中で、日本での「e-C4」販売戦略を進める可能性がある。
2020年7月15日には、日産が新型EV「アリア」を発表。今年後半には、マツダの「MX-30」やホンダ「e」の日本国内販売(またはリース)が期待されている。
そうした中で、人々のライフスタイルに訴える広報戦略を得意とするフランス車が、日本でのEV普及に向けて日本メーカーとは違うアプローチを仕掛けてきそうだ。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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