FURUNO ITS Journal FURUNO ITS Journal

ITS業界記事 氷上で感じた、フィードフォワード型の最新姿勢制御システムの実力
~日産のEVやe-POWERでe-4ORCEを試す~

 氷上を走るクルマ

毎年恒例となっている、日産が主催する氷上での新車試乗会に参加した。

場所は、長野県北佐久郡立科町にある女神湖だ。
この周辺は八ヶ岳に近く、標高が高いリゾート地として知られる場所。冬季は気温が0度を下回る日が多く、湖は厚い氷で覆われる。
冬季の女神湖では、地元の事業者が氷上で自動車の走行体験会を実施しており、日産は地元事業者と共同で、報道陣向けに新車試乗会を企画しているのだ。

氷上試乗会と聞いて、「クルマが氷の上を走ることができるのか?」という疑問を持つ人が少なくないだろう。
また、「氷上ならばスパイクタイヤを履いて走るのか?」と、昔のようにタイヤに突起物を埋め込んだスパイクタイヤを連想するかもしれない。

しかし実際に使用しているタイヤは、市場で流通しているスタッドレスタイヤだ。今回は、ブリヂストンのBLIZZAK(ブリザック)「VRX3」を装着した。
VRX3などの最新スタッドレスは、雪上走行性能に加えて、アイスバーンなどの氷上走行性能が各段に向上しており、究極のアイスバーンともいえる湖面での氷上でも加速、減速、そしてコーナーリングで高いパフォーマンスを発揮する。

 10台を乗り比べてe-4ORCEの実力を知る

今回の氷上試乗会で、日産は開催の目的を「氷上という非常に滑りやすい路面環境において、e-4ORCEの操縦安定性、走行性能の高さを体感し、理解してもらうこと」と定めた。

e-4ORCE(発音:イーフォース)とは、日産の最新型四輪制御システムで、2023年1月時点ではEV(電気自動車)の「アリア」と、シリーズハイブリッドであるe-POWERの「エクストレイル」に採用されている。
今回はこれら2モデルの他、EVでは軽EVの「サクラ」(前輪駆動車)、またe-POWERでは「キックス(四輪駆動車)」、「ノート(四輪駆動車)」、「ノート オーラ(四輪駆動車)」、「ノート オーラ NISMO(前輪駆動車)」、「ノート オーテック クロスオーバー(四輪駆動車)」が用意され、さらにスポーツモデルとして「フェアレディZ(後輪駆動車)」と「GT-R(四輪駆動車)」という合計10モデルを乗り比べてみた。

まず、e-4ORCEの特徴だが、「乗る人全てに快適な乗り心地」、「卓越したハンドリング性能」、そして「路面を問わない安心感」を考慮し、「力強く滑らかな走り」を実現している。
技術的には、減速時や加速時に、四輪の駆動力を制御してフラットな乗り心地を実現。
また、コーナーリングでは、四輪それぞれの路面とのグリップの限界を算出し、それに応じた駆動力とブレーキ機構の制御を行う。
さらに、アクセルの踏み方に応じてトルクの綿密なコントロールを行っている。

e-4ORCEのシステム構成は、車両各部にあるセンサー等から収集したデータを、Chassis Control ECUで解析して、目標の車両挙動を決める。
その上で、Chassis Control ECUからVDC(Vehicle Dynamics Control)に対してブレーキ制御の指令を出す。
また、パワートレイン用の制御を行うVCM(Vehicle Control Module)に対して、駆動トルクの前後配分に関する指令を出す。このようにVDCとVCMが協調する仕組みだ。

今回の試乗した「ノート」などで採用されているe-POWER AWDと制御の規模を比較すると「約1.5倍」(日産)とのことで、パワートレインと車体の統合制御である点を強調している。
また、先代「エクストレイル」が採用した四輪駆動制御システム「Intelligent 4x4」とe-4ORCEを比較すると、前者がフィードバック制御であるのに対して、後者はフィードフォワード制御である点が大きく違う。
つまり、e-4ORCEは外部からの入力データに対して事前にある程度の予測をしながら、データが入力されると短時間で制御指令を導き出し、さらに先に説明したVDCとVCMの作動時間を短くしていることで、動きに対する先読み制御を実現している。

 「アリア」と「エクストレイル」の走行性能を体感

では、実際にe-4ORCEで氷上走行した感想をお伝えしよう。
まず、「アリア」については想像以上の走行性能だった。停止状態からかなり強めにアクセルを踏み込むと、まるで舗装路で加速しているかのように自然に速度が上がっていく。
「いかにもクルマ全体がシステムによって制御されている」というイメージではない。ごく自然な加速であることに驚いた。
ちなみに、VDC制御をオフに切り換えて走行してみると、VDCはVCMとも連動しているため、タイヤはかなり空回りして加速が大きく鈍った。

コーナーリングでは、ハンドルの切り角が増えて前輪が滑る状態に入る前に後輪モーターのトルクと左右ブレーキの制御によって、想定したクルマの軌道を大きく逸脱することもなかった。
VDC制御をオフにしていると、VDC制御オンの時よりクルマをコントロールすることが確かに難しくなったが、クルマ本来の出来の良さを実感した。大きな蓄電池を車体下部に搭載する「アリア」は、その構造によって低重心であるが、クルマの前後の重量バランスがとても良い。
こうしたクルマとしての素性の良さがあるからこそ、e-4ORCEがさらに活きるのだと感じた。

次に、エクストレイルに乗る。
ボディ形状としては、アリアに比べて車高が少し高く、それによって重心も少し高くなっている。
また、e-POWERでは搭載する蓄電池を最小化しつつ、効率的にエンジンを駆動させることを考えている。アリアに比べると蓄電池の搭載位置による低重心という車体構造ではない。
そのため、エクストレイルは、左右に傾くロール、前後方向の傾きであるピッチ、そして左右の水平方向の傾きであるヨーが、アリアと比べてゆったりと動く傾向がある。
そうした動きに対してe-4ORCEがしっかりと制御することで、姿勢が安定する。
路面の摩擦係数が低い今回のような氷上でも、こうしたエクストレイル特有の動きをしっかり感じ取ることができた。
操作性が良いことで運転が楽しいのはもちろん、「もしもの場合」に陥らないための心の余裕を感じた。

今回の試乗は氷上のみで、雪上走行はなかった。
だが、日産が示した深雪路や圧雪平坦路での発進時や、圧雪路での旋回時の走行安定性に関する資料によると、先代エクストレイルのIntelligent 4X4との性能差がかなり大きいことが分かる。
氷上走行からも、雪上でのe-4ORCEの高い性能が想像できる。

今後、機会があれば「アリア」や「エクストレイル」を降雪地域でじっくり走らせてみたい。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

FURUNO ITS Journal メール会員募集中!「ITS業界に関する情報」や「フルノ情報」などをお届けします(登録無料) FURUNO ITS Journal メール会員募集中!「ITS業界に関する情報」や「フルノ情報」などをお届けします(登録無料)

FURUNO ITS Journal

2024年の記事

2023年の記事

2022年の記事

2021年の記事

2020年の記事

2019年の記事

2018年の記事

2017年の記事

2016年の記事

2015年の記事