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ITS業界記事 EV普及に向けた各国の政策

 不透明感が強くなる欧州のEV化

2017年、日本でも「EVシフト」が話題となり、テレビや経済雑誌でEV(電気自動車)に関する特集記事が数多く組まれた。
その背景には、世界各地の国や地域が打ち出したEV普及に向けた政策がある。
例えば、フランスと英国の両政府はそれぞれ「2040年までにガソリン車とディーゼル車の販売を禁止する」との方針を表明している。これは事実上、電動化を指す。ただし、電動化とは完全EV(Pure EV)を意味するのではなく、内燃機関(Internal Combustion Engine)とモーターを組み合わせた、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車を含めた解釈である。
一方、仏英政府の政策に対して、欧州最大の自動車生産国であるドイツは反発した。ダイムラーの幹部は「EVなどの電動化は進めるが、ガソリン車やディーゼル車を廃止する時期を特定することは現時点で難しい」との見解を述べた。ダイムラーは2020年代から、新しいEVブランドのEQを立ち上げ、小型車(Cセグメント)を中心としたEVモデルを次々に市場投入する予定だ。

では、実際のところ、欧州の自動車業界関係者はEV普及についてどう思っているのか?
彼らの本音を聞くために2月上旬、ドイツのマインツ(Mainz)で開催された、EVなどの電動車向け電池の国際カンファレンス、AABC(Advanced Automobile Battery Conference) Europe 2018を取材した。
AABCはアメリカで発祥し、2010年前後の第4次EVブームの際に自動車産業界で大きな注目を集めた。最近はEVシフトというトレンドの中、AABCの参加者は再び増加し、今回のAABC Europe2018は過去最大となる950人が世界各地から詰めかけた。

結論を言えば、欧州でのEV普及は「未だに不透明感が強い」という考えが主流だった。
筆者も近書「EV新時代にトヨタは生き残れるのか?」(洋泉社)の中で述べているが、今回の第5次EVブームは、2015年に起きたフォルクスワーゲングループによるディーゼルエンジンのコンピュータ制御に関する不正問題が起点だ。企業イメージの回復に向け、フォルクスワーゲングループは2016年の中期経営計画で「EVシフト」を強調した。そうした流れに、ダイムラーとBMW、さらには自動車部品大手のボッシュとコンチネンタルが連携した。AABC Europe2018でも、こうした筆者の考え方を裏付けるような講演を数多く聞いた。
つまり、欧州でのEVシフトは、企業のマーケティング活動の側面が強く、現在EVで利用されているリチウムイオン二次電池の技術が急速に発達ことによるものではない、ということだ。
また今回、欧州委員会(EC: European Commission)も講演し、新しいCO2削減目標として、「2030年までに2021年比較で30%減」について説明した。これは欧州でのEV普及を後押しすることは確かだ。ただし、ECでは米カリフォルニア州のZEV法(Zero Emission Vehicle Regulation)や中国のNEV法(New Energy Vehicle Regulation)のように、EVの台数規制を行うような法案の成立を目指す動きはない。

 インドが目指す「2030年EV化」

ドイツ取材の翌週、インドのデリーを訪問した。2年に一度開催されるオートエキスポの取材である。
オートエキスポはインドの自動車関係者が一堂に会する場だ。デリー郊外の振興開発地であるグレーターノイダでは自動車メーカーが主体のモーターショー、またデリー市街地のコンベンションセンターでは自動車部品ショーが行われた。

今回の最大の注目は、EVである。
インドは過去1~2年に、政府高官が「2030年までにインドで販売するすべてのクルマをEV化する」と発言してきた。ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車などの電動車を含まず、完全なEV(Pure EV)のみを意味する。こうした強硬な姿勢を示している国はインド以外で例がないため、世界の自動車業界関係者の間で「本当にインドは完全EV化を実現できるのか?」との疑問の声が広がっていた。

そうした中、インド自動車工業会は2017年12月、インド政府に対してEVに関する提言書を提出した。それによると「2030年までに新車の40%をEV化、または2030年までに商用車の完全EV化を目指す」とした。
新車全体の100%EV化から40%EV化へとスケールダウンしたとはいえ、2017年のインド自動車市場はドイツを抜いて世界第4位となる410万台。また、人口は現在中国に次いで世界第2位の約13億人だが、2030年頃には中国を抜いて人口世界1位になることが確実視されている。

こうした中、オートエキスポでは当然、自動車メーカー各社はEVを出展した。なかでも目立ったのが、インド地場の大手2社だ。
タタは、スマートシティ構想を中心として、公共交通向けにEVバス、小型トラックを改造したような新しいデザインのEV、また小型のEVスポーツカーなどEVのフルラインアップを展示した。
また、マヒンドラ&マヒンドラは、公共交通向けにはタクシー向けのEV三輪車、Cセグメント向けのEVプラットフォーム、そしてトヨタの超小型モビリティ「i-ROAD」に似た3輪車EVなどを出展した。

一方、日系大手のトヨタとホンダは、既存のEVコンセプトモデルの出展にとどめ、記者会見でもEVに関する発表はなかった。「インド政府のEV政策は未確定な要素が多く、今回はEVに関する発言を控えた」(日系自動車メーカー関係者)という状況だ。
そして、インド最大シェアを誇るマルチ・スズキは、既存のEVコンセプトモデルを出展し、さらに「ハイブリッド車こそ、インドでの環境対策に最も有効だ」と強調。2017年7月に行われたハイブリッド車に対する所得税の引き上げに対して、けん制するような発言だった。

 結局、中国が最優先市場

以上のように、2月は欧州とインドを巡り、その直前の1月にはアメリカ各地で取材を行った。そうした中で感じたのは、EVの普及に対して最も積極的なのは中国。2017年の実績では、世界EV市場140万台のうち、中国が半数を占めている状況だ。今後は中国のNEV法が厳しくなる中、中国でのEV需要が世界のなかで最も大きく伸びることは確実なのだ。
これからも、EVシフトの現実について、世界各地での取材を続けていきたい。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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