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ITS業界記事 ITS EU 2017現地レポート ~進む自動運転、どうなるeCall~

 熱波の中、LRT (Light Rail Transit)の聖地で開催

6月後半、フランス東部のストラスブール市で第12回 ITS EU 2017が開催された。
ITSとは、Intelligent Transport Systems(高度交通システム)のことである。同分野で世界各国が一堂に会する世界会議は1~2年に1度開催されているが、ITS世界会議が欧州内で開催されない年に限り、EU会議として開催される。

名目はEU会議だが、世界の自動車産業界はジャーマン3 (ダイムラー、BMW、VW)と、自動車部品大手メーカーの2トップ(ボッシュ、コンチネンタル)が主導権を握っていることもあり、ITSにおける欧州での最新動向を探るべく、今回の会議には日系企業を含めて世界各国から約3000人が参加した。

開催地のストラスブールといえば、次世代型の路面電車であるLRTを市街地交通に活用した、コンパクトシティ政策を成功させたことで世界的に有名だ。今回、筆者は同地に1週間滞在したが、ホテル周辺から会場まで、またストラスブール中央駅から市街中心地までなど、1日乗り放題乗車券を4.5ユーロ(約580円)で購入してLRTをフル活用した。ただし滞在中、欧州には異例の熱波が押し寄せており、会議が終了する午後7時の時点でも屋外気温が35度に達するほどの猛暑で、LRT車内の弱冷房では身体を十分に冷やすには不十分だと感じた。

 自動運転シャトルやトラック縦列走行など、欧州各国で進む自動運転

欧州でのITSにおいても、主な話題はやはり自動運転だった。
自動運転は、一般的には次世代自動車の研究領域で重要とされる3つのV
・AV(Automated Vehicle、または自律を示すAutonomous Vehicle)
・CV(Connected Vehicle)
・EV (Electric Vehicle)
に位置づけされているが、欧州の場合、CAD (Connected Automated Driving)として自動運転と通信のコネクテッドを総括した技術領域に位置付けされている。

CADについては、EUが2014年から2020年までの技術開発政策であるHorizon 2020のなかでも最重要課題として取り上げられており、Horizon 2020の全体予算の7%にあたる6.3ビリオンユーロ(約8000億円)をITS向けに投じている。また、EUがITSに特化して設けている技術開発基金が他にも様々あり、欧州におけるITSの実用化に向けた推進力になっている。

自動運転については、欧州各国の国境を通過する(クロスボーダー)長距離トラックのプラトゥーニング(縦列走行)の早期実用化を目指している。2016年4月にオランダのアムステルダムで開催されたEU各国の交通・運輸大臣による会議でも、トラック・プラトューニングは主要課題となり、同年には高速道路での実証試験が行われた。その基礎データを解析した上で、2018年から2019年にかけて、2019年以降の商業利用を踏まえた広域での実証試験を行う。

一方で、フランスのNAVYA社やドイツのベルリンに開発拠点を置く米ローカルモータースの自動運転部門なども、欧州各地で自動運転シャトルの実証試験を行っている。こうしたドライバーレス型の完全自動運転について、現状では地方自治体それぞれがローカルルールとして対応している。EUとしてできるだけ早い時期に、自動運転シャトルサービスにおける技術の規格化と法整備を進めていく考えだ。
また、自動運転において重要なファクターとなる、高精度3次元地図(HDマップ)については、ジャーマン3が主要株主であるドイツのHere社と、アップル社に地図情報を独占提供しているオランダのTomTom社が事実上の世界標準を狙い、熾烈な競争を水面下で繰り広げていることが分かった。

 どうなるeCall

このように、欧州でも世界各地でのITSと同様に自動運転が主役となり、その技術開発に注目が集まる。

だが、そもそも欧州でのITSで最重要課題とされてきたのは、eCallだ。
eCallとは、路上で重大な自動車事故が発生した場合、日本の119番に相当する救急対応を要請する通知(112番)を、車内での手動ボタン、またはエアバックが作動した際に自動で行うシステムだ。

eCallの実施に向けては、EUが独自に打ち上げる衛星システムGalileo(ガリレオ)を活用することが事業の基盤となるはずだった。だが、Galileoの運用について欧州各国の意見をまとめることに時間がかかるなど、eCall実用化のロードマップの修正が繰り返されてきた。

現時点では2018年4月からの運用を目指すとしており、今回のITS EU 2017でもいくつかの技術セッションでeCall関連の発表があった。炎天下のなか、屋外に展示されたeCallによる大型トラックでの実証試験の説明を聞いたが、eCall通知を受け付けるセンター「PSAP (Public Safety Answering Point)」の拡充において欧州各国での整備状況に差があることが分かった。
また、オープニングセレモニーやクロージングセレモニーでもeCallの現状と今後について触れられることがなく、筆者としてはeCallの2018年4月実施について、若干の不安を感じた。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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