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ITS業界記事 半導体不足で露呈した、自動車産業の実情

 相次ぐ自動車の減産

「半導体の供給不足で減産」というタイトルが付いた報道が2020年末から目立つようになった。
半導体という用語を聞くと、多くの人はIT系産業をイメージするかもしれないが、今回減産されたのは自動車だ。

自動車は数万点に及ぶ部品で構成されているが、その中には様々なアクチュエーター(稼働装置)がある。例えば、エンジンへの燃料噴射装置、自動変速機、パワーウインドウ、そしてカーナビなどの衛星測位システムだ。これらを個別に制御するためのマイクロコンピュータが、廉価な自動車でも20~30個程度、また高級車になると100個近く搭載されている。マイクロコンピュータは、CAN(コントローラー・エリア・ネットワーク)と呼ばれる車載通信網により相互連携する仕組みだ。
マイクロコンピュータ内部の構成は、ひとつの半導体IC(インテグレーテッド・サーキット)にCPU(セントラル・プロセッシング・ユニット)と記憶装置のRAMやFlashメモリーを内蔵しており、そのため半導体の供給不足は自動車製造に大きな影響を及ぼす。

では、なぜこのタイミングで半導体の供給不足が起こったのか?
報道では、第五世代通信(5G)向けの基地局での需要が伸びているなど、自動車産業と直接関係しない分野での需要が増加したことを理由に挙げている場合もある。
だが、実際に自動車メーカー各社の話を聞くと、原因はいたって単純な”購買業務の在り方”(サプライチェーン)であることが分かってきた。
それを明確に答えたのは、トヨタだった。

  「影響なし」とするトヨタの体制

トヨタがオンラインで行った今期第3四半期決算報告会で、参加した記者からは当然のように、半導体不足による生産への影響について質問が出た。
これに対して、経理担当の執行役員は「特に影響はない」と言い切った。
この発言に筆者を含めた報道関係者、またトヨタ以外の自動車業界関係者はかなり驚いた。
なぜならば、ほぼすべての自動車メーカーで、半導体不足による生産の影響が出ているのに、2020年(暦年)で自動車生産台数が世界一へと返り咲いたトヨタが「影響なし」というのだから。

なぜ、トヨタだけが「影響なし」なのか?
その理由について、トヨタの経理担当進行役員は「平素から部品メーカーとのコミュニケ―ションを密接に行っているからだ」と、至極当然の回答をした。
さらに「ティア1だけではなく、ティア2、さらにその先のティア3やティア4に対しても、トヨタ本社(購買部門)から直接、定期的に連絡を取る体制になっている」とも回答した。
「場合によっては1日10回以上、ティア1などに電話をすることもある」ともいう。

ティアとは、部品メーカーを指し、ティア1はデンソーなど部品大手で、半導体メーカーはティア2に相当する。
一般的には、ティア2とのやり取りはティア1が行い、自動車メーカーが直接ティア2と交渉することは比較的少ない。
ティア1やティア2に対する購買の計画表についても、トヨタは「最長で3年程度まで策定し、状況に応じて短期や中期で細かい修正をかけている」というのだ。

まさに、トヨタ生産方式が誇るジャストインタイムという購買から部品納入までの緻密な一括管理を徹底していることで、トヨタは他の自動車メーカーで発生した半導体の供給不足を引き起こさなかったことになる。
ちなみに、トヨタの前日に決算報告を行った日産の場合、COO(チーフ・オペレーティング・オフィサー)が「半導体の供給不足は、一般的な購買のサイクルから考えて2021年5月頃には解消すると見込んでいる」との見解を示している。
また、日産の新型小型車「ノート」の技術者とオンラインで行った技術に関する意見交換会で、第二世代となり性能が大幅に上がったシリーズハイブリッドシステムのe-Powerのモーター制御に使用するパワー半導体については「現時点で供給不足はない」と説明した。

  サプライチェーンは本当に変わるのか?

そもそも、今回発生した自動車産業への半導体供給不足の直接的な原因は、新型コロナ感染症による自動車販売台数が急激な減少から急激な上昇へと転じたことで、部品の購買に対する予測が難しかったことにある。
グローバルで見ると、最初に市場への影響が出たのが中国だ。中国各地での都市封鎖(ロックダウン)により第1四半期で販売台数は大きく落ち込んだものの、第2四半期には早くも大きく増加した。

また、世界で最もコロナ感染者数が多いアメリカでも、第2四半期の後半から販売は徐々に回復の兆しが見えてきた。欧州では回復の速度は中国やアメリカと比べると低いものの販売増加の傾向は明らかだ。
一方、日本の場合は、コロナ感染の第一波の緊急事態宣言下でも、トヨタの場合で前年同月比6割程度までの減少にとどまり、秋口からは前年同月比100%越えが続いている状況だ。
世界の地域毎に大きく異なるこうした販売状況を受けて、それぞれの国での生産、または輸出に向けた生産体制の管理が複雑化していった。そうした中で、トヨタの販売予測、生産調整、そして部品の購買戦略という総括的な管理体制の優位性が目立つ結果となった。

一方で、今回の騒動によって、自動車産業界における半導体の重要性が改めて認識され、結果的に自動車産業のサプライチェーンの変化が加速するのではないか、という見方が自動車産業界の中にあるようだ。
確かに近年、自動車産業界で半導体メーカーの存在感が増している理由として車載マイコン数は増加している。しかし筆者はこの見方については懐疑的だ。それは以下2つの潮流が背景にある。

1つ目は、例えば自動車部品大手の独ボッシュが提唱しているように、今後はサーバーセキュリティへの対応など車載の中央制御システム化を推進する中で、車載マイコン数を大幅に減少させる動きがあることだ。
さらに2つ目として、こうした動きと並行して、CASE(コネクテッド・自動運転・シェアリングなどの新サービス・電動化)やMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)といった分野で、米インテルや、インテル傘下のイスラエルのベンチャー企業モービルアイ、そしてGPUを主力製品とする米エヌビディアなど、半導体関連企業が「これから我々が注力すべき事業は、ハードウエアやソフトウエアの販売ではなく、集約したデータを解析し、新しいサービス事業を制御する基盤事業を構築することだ」という姿勢を示していることにある。もちろん、これら“革新的なデータビジネス”と、トヨタが言うような「ティア1やティア2に1日10回以上電話して生産状況を細かく調整する」という”人と人とのつながり”とは、違う次元の話ではある。

半導体の供給不足問題は思いがけず、自動車産業のサプライチェーンが旧態依然とした姿だと露呈してしまったように思う。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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