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ITS業界記事 交通事故多発で注目されるコネクティビティ技術

 交通事故は減っている。4つの理由とは?

2019年4月から5月にかけて、交通事故に関する報道が増えている。
滋賀県内で起こった、散歩中の保育園児が亡くなった事故。また、東京・池袋での高齢ドライバーによる暴走が引き起こした、自転車や歩行者を巻き込んだ事故。さらには、飲酒運転による暴走事故など、悲しい事故が全国各地で立て続けに発生した。

本記事では、日本において、国や自動車メーカーなどによる交通事故対策の現状と今後について考えてみたい。

最近の事故報道を見ていると、交通事故が増えているようなイメージを持つかもれないが、実際には交通事故数も交通事故による死亡者数も減少傾向にある。
警察庁のまとめによると、交通事故の発生件数は過去10年間でほぼ半減し、2018年では年間50万件を下回っている。交通事故による死亡者数は、最悪期の1970年と比べ4分の1以下の3532人まで一気に減少している。
こうした減少傾向の背景には、4つの理由があると考える。

1番目は、クルマの「走る・曲がる・止まる」という基本性能の向上だ。ボディ、エンジン、サスペンション、タイヤなどクルマを構成するそれぞれの部品の品質が上がり、クルマ全体としての性能が上がった。ドライバーの意思に対してクルマが正確に動くことが安心安全な運転につながり、その結果として事故が減った。

2番目は、道路などインフラの整備だ。1970年代まで、東京都心の一部でも未舗装路が目立ったが、いまでは全国の主要道路のほとんどが舗装された。これにより、クルマの基本性能「走る・曲がる・止まる」をしっかりと発揮できるようになった。雨天や雪の場合に特に、クルマと歩行者それぞれの安全性が高まった。

3番目は、クルマの衝突安全性能の向上だ。衝突した場合に乗車員に対する損傷を軽減するための車体構造の開発が進んだ。また、歩行者保護の観点から、ボディ外板の素材や形状で新技術を投入。最近では、ボンネット上で開く歩行者保護用エアバックを装着するクルマも登場している。

そして4番目は、衝突を回避、または衝突の被害を軽減する予防安全技術の発達だ。いわゆる自動ブレーキや、アクセルとブレーキの踏み間違い防止装置など、ADAS(Advanced Driver Assistance Systems : 高度運転支援システム)の標準装備が進んでいる。

以上の4つの理由に加えて、さらに交通事故を減らすために必要なのが歩車間通信を含むV2Xだ。

 歩車間通信はいつ実現できるのか?

クルマとクルマがつながる車車間通信をV2V、クルマと道路などのインフラがつながる路車間通信をV2Iと呼び、さらにクルマと歩行者がつながる歩車間通信をV2Pと呼ぶ。
こうした、クルマとクルマ外部をつなげるコネクティビティの総称がV2Xだ。

近年、自動運転技術の開発において、高速道路でのV2Iの実用化に向けた試験が本格化している。V2Vについては、同一メーカーのクルマどうしであれば実用化できるレベルにあるが、今後はメーカーの壁を越えたV2Vの早期実現に向けた開発が期待される。そしてV2Pについては、昨今の重大な交通事故が交差点付近で歩行者を巻き込んでいるため、早期の実用化が必要だ。

自動車メーカー各社は近年、自社のテストコース内に交差点を含む市街地を模した試験地域を設置しており、歩車間通信に関する技術開発を進めている。
また、ETC2.0などを製造販売する電機大手の中でも、V2Pの実用化に向けた実験を行っている。例えば、パナソニックの場合、2020年の東京オリンピックパラリンピック開催を念頭に東京・お台場地区の公道で、V2Pの実験を行っている。
V2Pにおいて重要なことは、クルマと歩行者の正確な位置関係の把握だ。通常のGPSでは、誤差が10メートル強であるためV2Pには対応しきれない。そのため、準天頂衛星みちびきと、全国1300ケ所の電子基準点を用いた衛星測位によって、誤差数十センチでの位置確認を行っている。

また、交差点内のカメラ、または700MHz帯域での通信によるV2P実用化も、衛星測位と並行して開発が進んでいる。
V2Pの本格的な実用化に向けては、こうした各種技術を効率的に組み合わせることでのコスト削減が必然だ。また、そのコストを誰が負担するのも課題だ。地方自治体、警察、通信インフラ企業、または自動車メーカーや自動車部品メーカーなのか。それとも、こうした交通に関係する企業や公共機関が共同でコストを負担するのか。
交差点などでの悲惨な事故を撲滅するためには、早期のV2P実用化が必要だ。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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