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ITS業界記事 日本の自動運転プロジェクト「SIP-adus」は大規模な実証実験へ。また、日本独自のV2X動向とは。

 自動運転の国際会議に今年も世界各国から400名が参加

日本政府は、成長戦略の中核となる次世代の科学技術の開発として、戦略的イノベーション創造プログラム(略称SIP)を推進している。

SIPには10の分野があり、そのひとつが自動運転だ。プロジェクト名を、SIP-adus (automated Driving for universal services)をいい、自動車メーカー、自動車部品メーカー、地図メーカーなどの民間企業と、大学などの教育機関、さらに行政サイドは関係各省庁が連携している。関係省庁とは、車両と道路などインフラについては国土交通省、自動車産業界の取りまとめでは経済産業省、交通法規については警察庁、そして車両に関する通信の領域で総務省の、計4省庁である。こうした産学官連携の全体指揮をとるのが、内閣府の役目である。

SIP-adusは2014年度から、自動運転にて産学官共同で取り組むべき協調領域の研究開発を始めた。また、2016年度からは重要な技術領域として、高精度な三次元デジタル地図(通称ダイナミックマップ)、ヒューマン・マシン・インターフェイス(HMI)、サイバーセキュリティに対応する情報セキュリティ、歩行者事故低減、そして次世代都市交通の5つを取り上げて、集中的な議論と検討を進めてきた。

そうしたなか、内閣府は2014年からSIP-adusの動向を世界に発信する場として、SIP-adus ワークショップを毎年、東京・お台場で開催している。開催概要については「自動走行システムを実現するために、欧・米・アジアパシフィックの専門家とともに課題の共有と解決に向けた取り組みを議論する国際会議」と明記されている。

 大規模実証の詳細を発表

今年のワークショップは11月15~17日に実施され、筆者は全体議論の様子を現地で取材した。その目玉となったのが、来年度から実施する大規模実証実験の概要の発表だ。

それによると、2016年11月下旬から2017年5月に、実験の技術仕様をまとめて、関係者間での調整を行う。参加の公募については、2017年6月頃に行い、実証実験は同年9月頃から2019年3月までの約2年半に渡って実施する。

実施予定エリアは、首都高速、東名・新東名高速、そして常磐自動車道の一部などの約300km。また、一般道路では東京臨海地域の周辺。そして、茨城県内の日本自動車研究所内に新設した模擬市街地テストコース等も活用する。

こうした公道を広域で使用する、政府主導型の実証実験は世界的にも珍しい。完全自動運転のグーグルカーの存在が目立つアメリカでは、カリフォルニア州やアリゾナ州など、地方行政が自動運転に関する個別の法規対応をしてきた。今年9月には米運輸省がアメリカ全体で自動運転に対する共通認識を持つためのガイドラインを公開したばかりで、各地方行政とのすり合わせには、まだ時間がかかる。そのなかで、来年度から国家プロジェクトとしてオハイオ州コロンバス市で自動運転の実証実験「スマートシティ」の実施が決まった。ただし、詳細については未定という状況だ。

この他、欧州では、イギリスとノルウェーの両政府が自動運転の実用化に前向きな姿勢を示しており、ノルウェーのイェーテボリ(Goteborg)市では来年から、ボルボのSUV100台を使った大規模実証が始まる。また、中国では、IT大手の百度(バイドゥ)、アリババ、テンセントがBMWや中国地場の自動車メーカーらと連携して、それぞれ独自の実証実験を行っているが、その実態は非公開だ。

よって、現状では日本のSIP-adusが、自動運転に関する技術開発において世界をリードするための重要な存在だと言える。

 日本独自のV2Xの研究開発が進む

そもそも日本は、カーナビの普及が世界で最も早く、道路交通情報システムのVICSや、高速道路での課金システムのETCなど、自動車に関する通信の実用化が進んできた。

こうした分野をこれまでは、ITS(Intelligent Transport Systems)と呼び、国際会議のITS世界会議でも日本は中心的な役割をとってきた。

だが、近年はアメリカのIT産業やベンチャー企業による、完全自動運転の実用化に向けた動きや、ライドシェアリングの急激が拡大によって、これまでのITSとは別の議論が必要になってきた。実際、今回のSIP-adusでも、欧州の自動車メーカーや米運輸省の講演のなかで、「自動車産業の近未来には、『所有から共有(シェアリングエコノミーの拡大)』の影響で、自動運転に対する不確定要素が大きい」という発言があった。

こうしたなか、日本としては、これまで培ってきたITSの基礎技術を実用段階へと格上げするため、V2V(車車間通信)、V2I(路車間通信)、V2P(歩車間通信)など、V2X(クルマと外部との通信全般)の実証実験を強化する。

そうした状況を説明するため、SIP-adusワークショップの会場には、ポスターセッションのコーナーがあり、前述の自動運転における5つの重要領域について詳しい記述表記や、動画上映、さらに実際に使用されている機器のサンプルなどが展示された。

具体的には、警視庁がトヨタやデンソーなどと共同で研究開発を進めている、700MHz帯域の電波と使ったV2Xで、準天頂衛星を加えたGNSS(Global Navigation Satellite System)と連携させる。これは、トヨタが2015年10月に「ITSコネクト」として発表したもので、現在では東京都内、名古屋市内、そして豊田市内などに送受信機器を設置している。700MHz帯域の場合、欧米が使う5.8GHz帯域や5.9GHz帯域よりも電波の波が大きく、高いビルに囲まれた都市部での通信に適していると、日本政府は考えており、SIP-adusでの実証実験が進む。

また、総務省が実施している79GHzのレーダーを交差点の交通の状況をモニタリングし、歩車間通信を保管する形で、車の位置を歩行者のスマートフォンに通知するシステムについて、開発の現状が詳しく紹介されていた。

以上のような、SIP-adusの実証実験が2019年3月に終了した後、日本政府としては東京オリンピック・パラリンピックを機に、本格的な次世代型V2Xの実用ステージを目指す構えだ。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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