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ITS業界記事 新車の“完全”オンライン販売が日本でもスタート。クルマの新しい買い方は定着するのか?

 2022年5月、現代自動車(ヒョンデ)が”完全”オンライン販売を開始

「クルマをスマホで買うことに、抵抗感はない」。
幼い頃から日常生活の中で様々なITデバイスに囲まれて育った、デジタルネイティブを中心に、幅広い世代に徐々に広まってきている考え方だ。

だが、細かい点を確認してみると、スマートフォンやパーソナルコンピュータを使ったクルマの購入方法はこれまで、最終的に購入する手続きまで全てのプロセスを一貫しておこなえるところには至っていない。
例えば、ボルボ・カーズ・ジャパンは2021年に日本導入した「C40 Recharge」から、EV(電気自動車)の販売をオンラインのみとしているが、顧客との売買契約や決済は既存の正規販売店で行う。

また、自動車メーカー各社が最近販売を強化している認定中古車や、トヨタのKINTOなどのサブスクリプションモデルでも、与信審査などでは顧客との間で書類を郵送でやり取りしている。
そうした中、韓国の現代自動車(ヒョンデ)は日本で2022年5月から、新車の完全オンライン販売を始めると発表した。
現代自動車は2020年に、グローバルで企業名とブランド名を、それまでの「ヒュンダイ」から韓国語の発音により近い「ヒョンデ」に改めている。

ヒョンデ・モビリティ・ジャパンの発表によると、第一弾として発売するのはEVの「IONIQ 5(アイオニック ファイブ)」と燃料電池車の「NEXO(ネッソ)」の2モデルだ。
「IONIQ 5」のスペックは、四輪駆動車の場合、最大出力225kWで最大トルクは605Nm。電池容量は72.6kWhで、後輪駆動車の満充電での航続距離は618㎞とかなり長い。

 事実上の無店舗販売へ

販売に関しては、日本国内にヒョンデの正規販売代理店を設定しない、事実上の無店舗販売となる。
購入希望者はヒョンデのホームページから車両情報を確認し、必要に応じて専用のカスタマーサービスセンターで電話やSNSを通じて相談できる。

売買契約を行った後の与信審査や決済もオンラインで完結する。購入したクルマは、自宅などの購入者の指定場所に運ばれてくる仕組みだ。
まさに、Amazonや楽天市場で家電や食料品を購入するような感覚で、新車を購入する形だ。
定期点検や修理については、ヒョンデ・モビリティ・ジャパンが提携する全国各地の整備工場が行う。

今回、ヒョンデが完全オンライン販売に踏み切った理由はいくつかある。
例えば、12年ぶりの日本再参入として、ユーザーやメディア向けに大きなインパクトが欲しかったことが挙げられる。
ヒョンデは2001年から2009年まで日本市場で乗用車向け事業を行い、累計で約1万5000台を販売したが撤退している。

ヒョンデ本社のヒョンデ・モーター・カンパニー、張在勲(チャン・ジェフン)CEOは「一人ひとりの大切なお客様の声にしっかりと耳を傾けることができなかった」と、当時の厳しい状況を振り返っている。
その上で、2009年の日本撤退によって全国での販売網がなくなったことを逆手にとり、ヒョンデは日本でバーチャルな販売網を構築することになったといえる。
そうした次世代のビジネスモデルは、コネテクッド・自動運転・シェアリングなどの新サービスや電動化といった、自動車産業の大変革期における様々な分野と融合していく。

 オンライン販売が盛んな中国。アメリカでは店舗販売がいまだ主流

視点を海外市場に移してみよう。
「Apple、Google、Meta(旧Facebook)、Amazon、Microsoftなど、IT大手が集結するアメリカでは、クルマのオンライン販売が進んでいるに違いない」。
そう思う人が少なくないのではないだろうか。
ところが、アメリカ市場の実態は大きく違う。
新車も中古車でも、旧来型の自動車販売店での売買が主流なのだ。

この点について、アメリカの大手自動車販売統括企業の幹部は「州法によって、自動車販売業者が保護されているからだ」と説明する。
アメリカでは、販売店各社が独自にオンライン販売に近い形のホームページを開設しているが、その実態は、販売店の在庫車の仕様確認にとどまっている。

アメリカの場合、販売店はメーカーに定期的な発注を出して、仕入れたクルマを在庫として確保するビジネスモデルが一般的なのだ。
このように州政府として、地域の販売店を保護する姿勢を明確にしているため、メーカーからユーザーへの直売となるオンライン販売について、アメリカの販売店は懐疑的な見方を示す。

一方、新車のオンライン販売が世界で最も早く広まったのは中国だ。
背景には、2000年代からの急激な経済成長の際、中国全土での販売網構築を難しいとするメーカーが多かったことが挙げられる。
中国で新車販売台数が多い地域は、北京、上海、広州など沿岸部や、沿岸部から比較的に近い地域であり、新車販売店もそうした地域に集中してきた。

内陸部の中規模都市や、さらに小さい都市に向けては、2000年代から2010年代の初めにかけて、一部のメーカーが大型トラック数台を連ねて新車を運び、現地で仮設の展示会を開くなど積極的なプロモーション活動を展開してきた。
そうした努力もあり、中規模や小規模の都市では、メーカーと契約する販売店が徐々に増えた。

一方で、販売店がない都市や地域も出てきた。
そこで、自動車メーカー各社が始めたのが、販売店のない地域や都市を念頭に置いた、電話での新車販売だ。専用のコールセンターと地域の整備工場などが連携した、まさにオンライン販売を強化していったのだ。
さらに、2010年代に入ると、中国でもスマートフォンの本格普及期となり中国ITビック3(バイドゥ、アリババ、テンセント)が事業を急拡大していく。

その中で、アリババはオンライン販売のポータルサイト『天猫Tモール』で、新車販売を積極的に展開するようになった。
今後も中国では、生活用品などの様々なオンライン販売が拡充されていく中で、新車販売についてもさらに進化したビジネスモデルが登場するかもしれない。

日本でも、新車の完全オンライン販売が主流になる日はくるのだろうか。
日系自動車メーカー各社の動向を注視していきたい。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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