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ITS業界記事 「テスラの技術の原点」台湾で進む、新交通システムの可能性

 あのテスラの原点は、台湾にあり

鴻海(ホンハイ)精密工業のシャープ買収が最終決定。また、2016年5月には、民進党(民主進歩党)による新政権が発足。経済でも、政治でも世界の注目を集める台湾で、クルマに関する新しい動きが徐々に見えてきた。

筆者は2016年4月上旬、台北を訪れた。この時期は毎年、クルマと自動二輪車の各種見本市が開催される。「台北国際パーツ&アクセサリーショー(Taipei International Auto Parts & Accessories Show)」、「台湾モーターサイクルショー(Motor cycle Taiwan)、「台北自動車電子機器展(AutoTronics Taipei)」、そして電気自動車に関する技術展示会「EV台湾(EV Taiwan)」と目白押しである。
そのなかで、まず注目されるのが「EV台湾」だ。台湾とEV(電気自動車)。この組み合わせについて、一般的にも、また日本の自動車産業界関係者にとっても馴染みが薄いだろう。だが、「テスラの原点が台湾にある」と聞けば、「それはいったい、どういうことか?」と興味が湧くはずだ。
そもそもテスラは、米ロサンゼルス郊外のEVベンチャー企業「AC Propulsion」とEV技術の開発について契約を結び、英ロータス「エリーゼ」を改良したEV「ロードスター」を生産していた。その際、AC Propulsionに対する投資家に台湾出身者がいたことなどから、EV関連パーツを台湾で調達していた。
具体的には、モーターは富田電機(FUKUTA Electronics)、インバーターなどの制御回路は致茂電子(Chroma ATE)から供給されていた。筆者は両社の関係者からは、テスラ創業当時の逸話をいろいろ聞いている。想い起こすと、台中市にある富田電機本社を訪問した時、張金峰CEOは次のように話してくれた。
「最初は、テスラが台湾政府の経済部(日本の経済産業省に相当)の関係者と一緒に弊社を直接訪ねてきた。台湾国内のモーター関連各社を回ってきたようだが、テスラ側の要求するモーターの仕様を量産するのは難しく、各社が断っていた。だからこそ、ウチでは絶対に成功させたいと思う気持ちで引き受けた。だが、実用化までの道のりは長く、弊社の自腹でかなりの先行投資をしてきた」。
それから約10年間を経て、テスラは「モデルS」「モデルX」、そしてエントリークラスの「モデル3」へと商品ラインアップを拡大している。「モデルS」以降の生産は、モーターやインバーターなどの主要部品と、車体の最終組み立てをカリフォルニア州内で行っている。これは、米エネルギー省から300億円を超える「先進型次世代車に関する補助金」を得て、カリフォルニア州フリーモント市のトヨタとGMの合弁企業から工場を買収するための、米政府に対する「義務」だ。とはいえ、基本的な技術は富田電機などの台湾の技術が引き継がれている。

もう一つが、テスラが台湾の影響を強く受けているのが、リチウムイオン二次電池の電池パックだ。“パソコンの電池”と呼ばれることが多い、直径18mm×長さ65mmの円筒形電池「18650」についても、前述のAC Propulsionが発案者。当初は、日系各社や韓国製の電池、さらに台湾とカナダの合弁企業の「E-One Moli」社などから電池を調達していた。
その後、パナソニックからの占有供給契約を結び、2016年後半を目途に米ネバダ州で生産開始が予定されている「ギガファクトリー」が稼働する運びとなった。

 テスラの経験を活かそうとしたが、期待したほど市場は成長せず

こうした「テスラの技術の原点」を支えてきた台湾。
同政府は2000年代後半から、小型二輪EVなどの小型電動車(LEV/Light Electric Vehicle)」や、中型四輪EVなどの普及に力を注いできた。
その中核になるのが、TARC(台湾自動車開発コンソーシアム/Taiwan Automotive Research Consortium)。国立の産業総合研究所や自動車研究所を主体に、民間企業と連携して完成車や部品の量産を目指すシステムだ。大学と大学院、さらに欧米への留学を経た、工学専門分野の博士号を得た優秀な人材が、台湾で独自性がある基礎技術を開発し、それを民間企業が“金の成る木”に育てるのだ。
しかし、台湾政府が描いた2011~2015年の電動車普及計画では、想定していたほどのEVとLEVの普及はしていないのが実情だ。その原因はいくつか考えられる。
まずは、ガソリン価格の低下が挙げられる。中東産出国の生産量維持により、原油先物市場の価格が下がり、「充電インフラが未整備なEVをわざわざ買う必要はない」という市民の声が増えた。また、中国向けのEV完成車やEV関連部品の輸出が期待されてきたが、当てが外れた。中国政府によるEV関連政策に大幅な変更が加わり、その後に中国経済が低迷したからだ。

 新政権による、EV政策の見直しと、ETC活用の新交通システムに期待

今回、EV台湾など、台北で開催された自動車・自動車二輪車イベントで、関係者の声を拾ってみて、最も多かったのは「新政権への期待」だ。
これまでの国民党は、中国との融和を提唱する姿勢を続けてきた。一方、政権交代を実現した民進党が今後、どのように中国と付き合っていくかに注目が集まっている。台湾の総統に就任する民進党・党首の蔡英文氏は、台湾経済の立て直しを強調しており、EVやLEVについても、製造者と消費者に対する奨励金制度の再構築を含めた改革を行なう可能性がある。
さらには、今回のTARCの展示でも見られたように、台湾では独自技術によるDSRC (狭域通信)によるV2Xの基礎開発が進んでいる。IEEE802.11pの規格で、5.85~5.925GHz帯を活用したもの。TARCでは2000年代後半から開発を進め、OBU 6.0A、6.0Bと呼ぶ最新モデルでは、受信機の形状が三角錐(6.0Aの場合、180mm×90mm×70mm、重要0.2kg)と特徴的だ。すでに欧州での実証試験で使われており、今後は台湾国内での本格的な実証を行いたいという。
この他、車線逸脱防止や、衝突軽減ブレーキに対応するスマートフォンのアプリの展示があった。TARCが民間企業と連携して開発したセンサーや単眼カメラからデータを取り入れるもの。なお、画像認識に関するプロトコルなど詳細について、TARCは明らかにしていない。
また、台北市などの交通渋滞が社会問題化するなか、料金徴収システムによる交通量抑制を目的として、新たなるETCシステム導入の可能性もある。今年3月に台北で開催されたITS (高度交通システム)に関するシンポジウムでは、三菱重工が最新のETCシステムに関する講演を行っている。同社は、マレーシア、インド、ベトナム、そしてシンガポールなど、アジア圏の各地域でETCシステムの導入で実績がある。
こうした動きに加えて、今回のEV台湾で併催された、産学官の関係者が参加した「電動車研究会」で、台湾政府の経済研究所の講演のなかで、都市部での「カーシェアリング」実証試験について説明した。台湾の新政権下では、こうしたEVとITSが融合した新たなる交通システムの構築が進む可能性がある。真夏の太陽が照り付ける台北で、そう感じた。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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