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ITS業界記事 空飛ぶクルマは、本当に飛べるのか?

 注目を集めるSkyDrive

最近、空飛ぶクルマ(フライングカー)に関する報道をよく目にする。その背景には、国の掲げる施策がある。
経済産業省が2018年8月、「空の移動革命に向けた官民協議会」を立ち上げており、2019年には政府の成長戦略として「2023年事業化」が明記された。

こうした中、日本発のベンチャー企業として注目されているのがSkyDriveだ。
同社の歴史を振り返ると、2012年9月に、自動車メーカーや自動車部品メーカーなどの約100名の有志によるCARTIVATOR(カーティベータ―)が発足。2014年1月にSkyDriveとしてのテスト初号機の開発に着手し、同年7月に無人試験機の飛行実験を始めた。

2018年7月に株式会社SkyDriveとなり、愛知県豊田市ものづくり創造拠点SENTAN(センタン)内に、同社のR&Dセンターを構えた。
同じ豊田市内に飛行実験場があり、また福島ロボットテストフィールド(福島県南相馬市)にも開発拠点を置く。

2020年8月25日には、最新テスト機「SD-03」が豊田市の飛行実験場で飛行を成功させている。9月1日には、SkyDrive代表取締役の福澤知浩氏と、筆者を含めた日本自動車ジャーナリスト協会がオンラインで意見交換を行った。

  空飛ぶクルマはeVTOL機(VTOL機:垂直離着陸機)

まず気になるのが、電池の性能だ。
試験機「SD-03」の発展形として、量産モデル「SD-XX」の仕様が公開されている。
推進力は、機体の四隅にそれぞれ2基、合計8基のモーターで発生させる。乗員を含めた最大離陸重量は500kgで、地上から500mまでの空域で飛行する。飛行最高速度は時速100kmで、飛行可能時間は20分間から30分間としている。

果たして、こうした仕様が2023年に実現できるのだろうか?
現状で、軽量の小型ドローンでも10分間から15分間程度しか飛べない。理由は電池性能にある。福澤氏は「(量産モデルに搭載する)電池パックの重量は、最大離陸重量の1/3程度」を目指すと回答している。
限られた電池容量で高い性能を出すためには、電池の高密度化が必要だ。この点ついて、直近の経済産業省「空の移動革命に向けた官民協議会」(2020年6月24日実施)では社会実装に向けた論点整理の中で、必要な技術要件として挙げている。

近年、自動車ではEVやプラグインハイブリッド車の量産化が世界各国で進む中、大型リチウムイオン二次電池の性能が向上し、量産効果によって価格も低下傾向にある。ただ、これを飛行用に使うとなると、電池容量を増やすことで機体重量が増加し、飛行距離に影響を及ぼす。この点は、自動車とは状況が大きく異なる。
果たして、空飛ぶクルマにも対応可能な、高密度な電池はいつ量産されるのか?
電池業界を見渡す限り、現状では目途が立っていない印象がある。

では、フル電動ではなく、クルマのように内燃機関とのハイブリッド化はできないのだろうか?
実は、飛行機の世界では、電動化についてハイブリッド化が議論の主体になっている。
ただし、自動車でいうハイブリッドとは内容が異なる。

JAXA(ジャクサ:国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構)では、2018年に航空機電動化コンソーシアムを立ち上げている。
目的は、航空機によるCO2排出量について「2050年に2005年レベルの半減」という国際的な達成目標の実現を目指すことだ。
JAXA関係者は「バイオ燃料の使用と、一部の機器の電動化によるハイブリッド化が現実的な解決策だ」と指摘する。将来的には、水素燃料への転換を目指したいという。

また「(当面の)電池やモーターの性能を考慮すると、飛行機のフル電動化は難しい」という声もある。
こうした解釈がある中で、小型の垂直離着陸機(VTOL機)である空飛ぶクルマがEV化することは現実的なのか?
電池パックを交換するというアイディアもあるが、それでも飛行時間は限定的なはずだ。

 マネタイズできるのか?

もうひとつの課題は、事業のマネタイズ(収益化)である。
前出の「空飛ぶクルマの社会実装に向けた論点整理」として、実装イメージを示した表がある。その中で、利用方法は災害時利用、事業利用、個人利用の3つに分類している。
さらに、物資、貨物、救急、空港アクセス、観光地アクセスなどの項目が挙げられている。

これら項目のほとんどで、「ヘリコプターのサービス例あり」という併記がある。
つまり、事業者として、ヘリコプターに対する空飛ぶクルマの差別化要因に不明瞭な部分が残る。結局、ヘリコプターとの差別化が難しく、空飛ぶクルマの普及台数が増えない可能性もあり得る。
そうした中、空飛ぶクルマのビジネスモデルとして、2025年日本国際博覧会(大阪万博)では関西国際空港から万博開催地までの運航が計画されている。運用については、大手航空会社が関与している。

ただし、周知の通り、航空産業はコロナ禍で多大な影響を受け業績が極めて厳しく、将来の見通しが立たない状況にある。三菱重工業は国産ジェット機の「三菱スペースジェット(MSJ)」の量産計画の凍結を発表したばかりだ。
電動化に対する技術、また事業のマネタイズという両面で、空飛ぶクルマを実用化するためのハードルは、現時点でかなり高いと言わざるを得ない。
空飛ぶクルマの関係者たちの夢に賭ける思いが、天に届くことを祈りたい。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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