「これを機に、日本のデジタル社会化を一気に進める必要がある」。
コロナ禍で、国会での議論や全国都道府県知事会議などで何度も登場しているセリフである。
その背景として、様々な社会課題が浮上している。
例えば、総務省が所管する、国民ひとりあたり10万円の特別給付金の給付が遅れているのは、マイナンバーカードと紐づく銀行口座がないひとが多いからだ、という指摘だ。
新型コロナウイルス感染者と接触した場合に、本人にその事実を知らせるスマートフォンアプリでは、個人情報管理の問題が指摘されている。
その他、長期の休校となった小学校や中学校の生徒に対する、オンライン学習のためのシステム整備や、医療機関と患者個人との結ぶ遠隔診療の在り方など、普段の生活に密着した課題が次々と浮き彫りになっている。
こうした一連の案件への対応を総称して、デジタル化、またはIT化といった用語が飛び交うのだ。
だが、社会のデジタル化に向けた具体的な動きはまだ少ない。
2020年6月中旬時点で、非常事態宣言が解除され、1回目の東京アラートも解除されたにも関わらず、東京都や北海道での新規感染者の確認が続いており、新型コロナウイルス感染の第二波を危惧する声が多い状況だ。
地域経済が長期に停滞した状態から、経済を立て直す初期段階にある。
また政府は、観光需要の回復に向けた支援政策「GO TOキャンペーン」に対する具体的な議論を始めた。
そうした足元での対応が優先される中、社会のデジタル化の議論が本格的に動き出すのはいつになるのだろうか?
社会のデジタル化については、日本にはスマートシティ/スーパーシティ構想がある。
コロナ禍の2020年5月27日、国家戦略特区法の改正案が参議院本会議で可決された。いわゆる、スマートシティ/スーパーシティ法案である。
内閣府では、スマートシティ/スーパーシティを「AI (人工知能)やビッグデータを活用し、社会のあり方を根本から変える都市設計」と定義している。行政手続、エネルギー管理、遠隔医療・介護、遠隔教育、キャッシュレス支払い、そして自動走行や自動配送など、地域の仕事や生活に関わるデータが効率的に利活用を目的としている。
と言われても、そう簡単に社会を根本的に変えることは難しい。
仮に、国家戦略特区としてエリアを区切った、期間限定の実験都市として政府の補助金などの支援を受けたうえで運用できたとしても、実際にそれが全国の各地の都市で収支が合う状態にするためのハードルは高いと思う。
肝心なことは、スマートシティ/スーパーシティという具体的なガイドラインが出来たことを踏まえて、全国各地の市町村それぞれが、地域課題を再認識することが、ウィズコロナ時代、さらにはアフターコロナ時代においてのスマートな生き方ではないだろうか。
スマートシティ/スーパーシティの中で、交通や物流などの移動について近年、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)という概念が世界各国で浸透してきた。
日本では、昨年度からスマートモビリティチャレンジ等、経済産業省と国土交通省が全国の地方自治体が企業のMaaS事業を支援する取組を行っている。
今年度は、「地域新MaaS創出推進事業」として行う。昨年度は、事業の検証に対する支援が主体だったが、今年度は実証に対して1案件あたり1000~3000万円の補助を行う。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、事業の公募期間が当初計画より長くなり、7月末までに本年度の支援事業が決まる。
昨年の支援事業では、バス、鉄道、タクシーなど公共交通の乗り継ぎの利便性や、共通の支払い機能などを盛り込んだスマートフォンアプリの開発が多かった印象がある。
本年度は、総括的な都市計画の中で、移動データを具体的に活用する実証を目指す。
筆者は、こうしたMaaS事案について、福井県永平寺町の政策アドバイスを行う永平寺町エボリューション大使として、町の職員や地域の交通事業者、そして町民など各方面との議論を進めている。
スマートシティ/スーパーシティやMaaSでは、データ収集やデータ解析といった、ITのイメージが強いが、実際の町づくりにおける主役は、あくまでも人である。
新しい生活様式が求められるいまだからこそ、「人と社会」との関係に真正面から向き合うべきだと思う。
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。