11月中旬、今年も世界各地から自動運転に関わる政府、地方自治体、企業、そして学術関係者らが東京のお台場に集まった。
次世代の技術開発について、日本の関係省庁が一丸となって取り組む国家プロジェクトのSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)だ。そのなかには、医療、化学などと並び、自動車の自動運転に関するプロジェクトがある。その一環として毎年、東京でワークショップが開催されている。
SIPは5年間行なわれるもので、今年度が第一期の最終年度となる。自動運転のワークショップでは、これまでの5年間、世界各地で行なわれてきた様々な自動運転の実証試験や量産化プロジェクトについて総括的な議論が行われた。
日本としては、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催期間に、お台場を中心とした東京湾岸エリアで次世代型自動運転のショーケースと呼べるような大型プランを実施する予定だ。これは、ポストSIPと呼ばれる、SIP第二期に実施されることになる。
筆者は過去5年間、毎年SIPワークショップを取材しており、その中で知り合った英国やスウェーデンの政府関係者と連絡を取り、両国の自動運転実証試験の現地も取材した。今回、SIP第一期ファイナルイヤーとなったワークショップでは、関係者らとの親交をさらに深めると共に、世界各地での自動運転の本格的な運用について議論した。
そうした議論の中で、最重要課題となったのが、ODDに対する解釈だ。
ODDとは、オペレーショナル・デザイン・ドメインの略称。自動運転を機能させる条件であり、例えば、都心、地方都市、山間部などの地域全体を指す場合や、高速道路や市街の狭い道など、道路の条件を指す場合もある。
日本語訳は各種あるが、運行設計領域と呼ばれることが多い。
ODDという考え方の基盤は、2016年9月に米自動車技術会(SAE)と米運輸省高速道路交通局(NHTSA)が自動運転のレベルについて指針を統一した際にできた。
自動運転レベルの中で、ODDの解釈が特に必要なのが、レベル3だ。
レベル3では、運転の責任が、レベル2までの運転車から車両のシステムに移行する。だが、レベル3はレベル4以上の完全自動運転とは違い、状況によっては運転者が運転する場合もあり得る。
具体的に言えば、高速道路を走行中に運転者が眠くなった場合、運転者が自動運転の切り替えボタンを押して自動運転モードに切り替える。だが、走行中の進路上で事故が発生して、警察官による手旗信号での交通整理が行われ、車両のシステムが自動運転を継続できなくなり、運転者への運転を指示してくる。
こうした状況などの対応条件を予め設定しておくのがODDだ。
つまり、レベル3ではすべての走行状況に対応することは極めて難しく、ODDとして走行条件を限定することで、レベル3での走行が可能となる。
この他、今回のワークショップで紹介された中で、SIPからプライベートカーについて新しい考え方が考案された。
これまでの考え方では、プライベートカーは手動運転であるレベル0からレベル2までに対応し、レベル3についてODDを考慮する。一方、レベル4からレベル5は公共交通機関などモビリティサービスを対象としていた。
こうした考え方に加えて、プライベートカーの自動運転機能を徐々にレベルアップしていき、レベル0からレベル4まで引き上げるもの。それ以外に、最初からレベル4に対応するプライベートカーもあり得る、という考え方だ。
要するに、自動運転のレベルについてはまだまだ初期段階であり、プライベートカーとモビリティサービスで自動運転車の量産化が進む中で、国際的な議論の中で自動運転レベルの考え方が大きく変更される可能性がある、ということだ。
自動運転レベルに関する議論と並行して、SIPワークショップ参加者の関心が高かったのが第五世代の通信方式(5G)についてだ。
5Gは通信量や通信速度が上がると当時に、通信機器どうしのデータのやり取りで時間的な遅延が少なくなる。そのため、自動運転で重要となる、車両どうしの通信(V2V)や、車両と歩行者が所有するスマートフォンとの通信(V2P)などの利便性が上がることが期待されている。
米運輸省(DOT)の講演では、フロリダ州でのV2Vに関する実証事例を基に、5Gと自動運転との係りについて詳しく触れた。
日本においても、SIP第二期においては、5Gを活用した車両と外部との通信の総称であるV2Xに関する実証試験が行われる予定だ。
だたし、そうした実証試験の内容について、国や自動車メーカーから具体的な発言がなかったことが気にかかる。
SIPの自動運転プロジェクトの第一期は、2020年3月31日に終了する。
東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年夏は、SIP第二期にあたる。
SIP第一期の成果を基に、早期にSIP第二期のロードマップを国内外に向けて公開されることを強く望む。
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。