EV普及のキモとなるエネルギーマネージメントに関して、新たな動きが出てきた。
三菱商事、三菱ふそうトラック・バス、そして三菱自動車工業の3社は、それぞれ35%・35%・30%を出資してEV総合サービスのオンラインプラットフォーム運営会社「EVNION(イブニオン)」を6月に設立し、9月から事業を開始する。
初期事業として、EV購入者に対して充電器や設置事業者などを紹介するポータルサイト「イブニオン・プレイス」を運営する。
ユーザーの視点で見ると、三菱自動車工業の新車を扱う販売店内にQRコードを置き、新車購入を検討中のユーザーがそこから三菱自動車工業のサイトを介して、イブニオン・プレイスを閲覧できるような仕組みを検討しているという。
インターネットの扱いに慣れているユーザーであれば、ユーザー自身がイブニオン・プレイスを自在に使って必要な情報を収集したり、設置事業者に見積もり依頼を行ったりできる。そうしたプロセスを手間だと感じたり、インターネットに不慣れなユーザーに対しては、新車販売店の営業マンによるサポートが想定される。
イブニオン・プレイスで閲覧可能なEVの情報は、三菱自動車工業の新車に限定しておらず、国内外メーカー各社のEVと、その性能を十分に活かせるような充電器とのマッチングについても情報を提示する。
さらに、三菱自動車工業、または三菱ふそうトラック・バスに関わる新車販売店だけではなく、国内外メーカー各社に関わる新車販売店との連携も今後、模索していく。
ここまでは、イブニオン事業全体の「第1段階」といった印象がある。将来的には、分散型電源における「リソースアグリゲーター」の事業化についても、EV市場の動向を見ながら、検討する余地があると指摘する。
このリソースアグリゲーターこそ、EV普及において必要不可欠な事業領域だと言えるのではないだろうか。その背景について、深堀りしてみたい。
分散型電源とは、電力の需要家(個人、企業・団体、地方自治体など)に近い電力源を指す。EV(電気自動車)、定置型蓄電池、太陽光発電所などである。
EVを活用した分散型電源の発想は2010年代からあるものの、これまで持続可能なビジネスになったとは言い切れない状態が続いてきた。
その経緯を振り返る。
日本で分散型電源に注目が集まったのは、電力の「固定価格買い取り制度(FIT)」が導入された2012年であろう。国が「再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法」を施行したからだ。
これにより、自宅や会社の屋根に太陽光パネルを装着する人や企業が一気に増え、自分で作った電気を売電することに関心が高まった。スマートグリッドや、スマートシティといった発想が産業界全体に広がった時期でもあった。
同じ頃、自動車産業界では大手メーカーによる史上初の大量生産型EVが登場した。三菱自動車工業「i-MiEV」と日産「リーフ」である。なかでもリーフについて、V2H(ビークル・トゥ・ホーム)という技術によって、EVから外部に逆潮流させる、分散型電源としての役割を日産は強調した。
その後、主体がコンサルティング関連企業の傾向にあった、スマートグリッドのブームが終焉。一方で、電力買い取り制度の契約が終了する、いわゆる「卒FIT」に合わせて、EVを分散型電源で利用するコストメリットについて、個人が検討するようになった。
例えば、中古車のリーフの価格がかなり安いため、電気容量でkWhあたりの価格だと定置型電源を新たに購入するより中古EVのほうが安上がりといった状況も生じたからだ。
そのほか、2010年代後半になるとリーフの累積販売台数が増えると同時に、搭載する電池のリセールやリユース、そしてリサイクルが社会問題化し、日産は住友商事と連携した「フォー・アール・エナジー」社を運用するようになる。
また、地震や豪雨など災害時の電源としてEV、プラグインハイブリッド、燃料電池車を活用する実証実験や、メーカー各社が地元販売店と自治体との間で災害時にEV等の電動車を貸し出す協定を結ぶ事例が増えた。
そうした中、国はグリーントランスフォーメーション(GX)施策の一環として、分散型電源に関する議論を2022年から加速させているところだ。
経済産業省 資源エネルギー庁は2022年11月から、「次世代の分散型電力システムに関する検討会」を実施し、2023年3月に中間とりまとめを公表している。
その中で、「EVとの電力システムの結合」という項目があるが「これまでの課題」として大きく2点を挙げている。以下、箇条書きとする。
このような課題について、同検討会ではワーキンググループによる議論を深めるとしているものの、現時点では具体案は提示されていない。
電力系統におけるEVとの関わりについては、VPP(バーチャル・パワー・プラント:仮想発電所)において電力の供給・受給についてコントロールする、リソースアグリゲーターという事業形態が紹介されているにとどまっている状況だ。
前述のEVNIONは、こうしたリソースアグリゲーターの素地があるが、同類の企業が今後生まれるのか、それらがアライアンスやパートナーシップを組むのかなど、この事業領域はまだ創世記であるため、先読みが難しい。
EV普及には、EV販売台数と充電インフラの数を増やすハードウェア・ファーストではなく、電力需要という大きな枠組みを優先するエネルギー・ファーストの姿勢でのぞむことが必須だ。
こうした日本におけるEV周辺事業を定点観測していると、強く感じることがある。
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。