未来の高速道路は、どんなカタチになるのか?
どんな新しいサービスがユーザーに提供されるのか?
高速道路に関する最新情報を得るため、公益財団法人 高速道路調査会が主催する「ハイウェイテクノフェア2024」(9月26日~27日、於:東京ビッグサイト)を取材した。
同フェアは、全国各地の道路管理事業者や交通関連機器メーカー等が一同に介する、まさに高速道路業界の国内最大級見本市だ。毎年、各方面の識者による基調講演が行われており、コロナ禍前に筆者も登壇した経験がある。
今年の会場内では、やはりDX(デジタルトランスフォーメーション)やAI(人工知能)に関する製品展示やパネルによる各社事業計画が紹介されていた。
高速道路でのDXやAIというと、乗用車のユーザーにとっては、いわゆる「2024年問題」を連想するかもしれない。日本における物流の要である長距離トラックに対して、2024年問題の重要性が指摘されているからだ。
だが、道路管理事業者の立場からすれば、2024年問題はあくまでも運送事業者側の課題であり、高速道路というインフラ側が主体となる議論ではなく、サイドサポートにまわるという印象がある。
その上で、高速道路におけるDXやAIとは具体的に何を指すのか?
大きく分けて、3つの分野がある。「業務の効率化」、「管理運営」、そして「顧客サービス」である。
まず、業務の効率化における業務とは、工事の管理、道路の点検や補修を意味する。
例えば、ドローンに搭載した高性能カメラで橋梁を点検する、定期的に衛星が取得したデータを分析して地盤の変化などを把握する、工事の現地立会をウェブカメラなどで行う、また車上からの目視による点検にAIによる検知を採用する、といったさまざまなケースが考えられる。
次に、管理運営と顧客サービスについては、サービスエリアやパーキングでのAIによる混雑状況の自動把握、交通状況等を考慮して情報サービスを有人から無人化、また料金所のETC専用化によるキャッシュレス化の促進やAIなどによるサポートシステムの構築などがある。
こうした取り組みは、一般ユーザーにとっても安全安心な走行や、利便性の向上という面で直接的なメリットを感じることができるだろう。
一方で、先に指摘した2024年問題に直結する対策についても、道路管理事業者各社は最新技術の導入について具体的なアクションを起こしている。
事例としては、長距離トラックの自動運転がある。
この分野については、産学官連携で国が進めた戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)での自動運転プロジェクトや、それに関連する経済産業省や国土交通省による自動運転支援事業などによって、これまで知見を蓄積してきたところだ。
直近では、中日本高速道路株式会社(NEXCO中日本)が、2027年度の開通を目指す新東名高速道路の工事区間(新秦野IC~新御殿場IC)を自動運転実証実験に使うという、極めて稀な試みを実施した。
一般区間2.8kmとトンネル区間3.1kmを使うという壮大な実証である。
筆者は6月に現地視察をしたが、その時点では下り2車線は舗装されておらず、実証実験は上り2車線を往復するというカタチをとっていた。
実証期間は5月から7月で、ホンダやソフトバンクなど民間企業各社がそれぞれタッグを組んで10団体による専用プロジェクトとして構成された。
今回の実証に基づき、「デジタルライフライン田園都市国家構想」におけるアーリーハーベストとして、新東名高速道路の駿河湾沼津SA~浜松SAで早期に社会実装する計画だ。
いわゆる「実証のための実証」ではなく、実用化を前提とした大規模実証という点が大いに注目されるプロジェクトである。
NEXCO中日本によれば、今回の実証実験に参加した各団体(企業の集合体)の実験実績を精査して実装する技術を決定するが、決め手となるコストは道路側に設置するセンサーの種類とその数が大きく影響すると指摘した。
それらセンサーを含むコストへの対応としては、基本的に利用者であるユーザーに対して通行料金の一部として負担してもらうカタチになるとの見解を示している。
こうした、V2I(ヴィークル・トゥ・インフラストラクチャー)に対する技術は、通信の方式や周波数帯、センサーの種類、センサーを設置する土木事業としての手法など、各種の考え方がある。
そうした中で、NEXCO中日本としては、自動運転だけではなく、通行車両の事故や故障などによる道路上での異常検知、気象状況の変化、さらには近年大きな社会問題となっている逆走などについても、V2Iによって課題解決を試みたいとしている。
ただし、今回のハイウェイテクノフェア2024の会場で、全国各地の道路管理事業者が展示した各種のV2I機器や事業構想が、一枚岩ではない印象を受けた。
各事業者の独自開発が目立ち、他社との連携について聞くと、実施的にはあまり情報交換していないと話す関係者が少なくなかった。
気象状況や交通状況において、地域間での差はあるにせよ、V2Iの社会実装においては機器やシステムの国内標準化は必要不可欠だ。
国としても、支援事業としての後ろ盾だけではなく、SIPで実施した「社会実装ありき」という理念に今一度立ち返って、高速道路、国道、そして市町村道におけるV2I機器・システムの標準化の議論を強化するべきだと、強く感じる。
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。